早河シリーズ第一幕【影法師】
早河は警察手帳を提示して事のあらましを玲夏やスタッフに伝えた。誘拐された少女が警視総監の孫と言うのは伏せたが、誘拐犯がこの部屋を指定した経緯を聞いて玲夏やスタッフ達は困惑している。
捜査本部の刑事達も部屋の前に集まっていた。
早河と玲夏は部屋の中で話し合う。
『玲夏がこの部屋に来たのは何時頃?』
「入ったのは9時だったかな。撮影開始が11時の予定だったからそれまで打ち合わせをしていて……」
突然、1503号室の電話が鳴り響いた。女性スタッフが電話をとり、二言三言会話をした後に戸惑いの目で早河を見る。
「あの、早河さん……ですよね? お電話です」
『俺に?』
女性スタッフから受話器を受け取った彼は通話口に出た。
{久しぶりに彼女と会えた気分はどうだい?}
『お前……』
またあの機械的な声が笑っていた。
『一体何が目的なんだ?』
{せっかくの愛しの彼女に会えたと言うのに機嫌が悪そうだねぇ}
『お前は何者だ?』
{今は私が何者かを尋ねるよりも早く彼女を避難させるべきだね。ホテルオーシャン東京に爆弾を仕掛けた。爆破時刻は10時30分。嘘だと思うのならあと10秒待ってごらん}
直後、近くで爆発音がした。驚いたスタッフがバルコニーに出て様子を窺っている。
{今のは台場公園に仕掛けた爆弾だ。威力はせいぜい公園の木々を吹き飛ばす程度。だがホテルに仕掛けた爆弾はこの何倍もの威力がある。君が今いる場所を簡単に吹き飛ばしてしまうだろうね}
早河はホテルのメモ用紙に台場公園、爆破、ホテルオーシャン東京、爆弾、10時半と乱雑に書いて香道に渡した。メモを見た香道は頷いて室内にいる玲夏とスタッフ達の誘導を始める。
『こんなことをして何になる? 金を手に入れたいんじゃないのか?』
{私の目的は金ではない。もう少しだなぁ。私の目的が何か、頭をひねって考えてみるといい}
通話の切れた受話器からはもう何も聞こえない。廊下やエレベーターホールは玲夏達や他の宿泊客、対応に追われる刑事とホテルの従業員で混雑している。
エレベーターホールとは逆の方向に行く早河を玲夏が引き留めた。
「仁! どこ行くの?」
『玲夏は香道さん達の指示に従ってくれ。ここに爆弾が仕掛けられているかもしれない。早くホテルを出るんだ。後で連絡するから』
玲夏の制止を振り切って早河は人の波とは逆方向に向かった。爆弾を仕掛けるとすれば非常階段か、客室か、それともホテル設備のどこか……。
人気女優の本庄玲夏がホテルオーシャン東京で撮影をしていると宿泊客の数名がネットに書き込んだことで、ホテルの前は玲夏を一目見ようと人だかりができていた。おまけに台場公園の爆破騒動で駆けつけた報道陣もホテルの前に詰めかけている。
ここに爆破予告があったにもかかわらず、本庄玲夏を見ることしか頭にない連中はどれだけ刑事達が制止をしてもホテル内に入ろうとする。玲夏はスタッフに囲まれてすでにホテルの裏口から外に出ていた。
騒然とするホテルから早河が待避した時、時間は10時25分だった。ギリギリまで爆発物を探したが何も見つけられなかった。
爆破予告の10時30分を10秒過ぎたが何も起きない。放心して半円形のホテルを見上げる早河の携帯電話が鳴った。着信は上野だ。
{早河、やられたよ。本来の目的はこっちだったようだ}
『まさか人質が……』
{いや、人質の安否はまだわからない。殺られたのは門倉警視総監だ。総監が射殺された}
捜査本部の刑事達も部屋の前に集まっていた。
早河と玲夏は部屋の中で話し合う。
『玲夏がこの部屋に来たのは何時頃?』
「入ったのは9時だったかな。撮影開始が11時の予定だったからそれまで打ち合わせをしていて……」
突然、1503号室の電話が鳴り響いた。女性スタッフが電話をとり、二言三言会話をした後に戸惑いの目で早河を見る。
「あの、早河さん……ですよね? お電話です」
『俺に?』
女性スタッフから受話器を受け取った彼は通話口に出た。
{久しぶりに彼女と会えた気分はどうだい?}
『お前……』
またあの機械的な声が笑っていた。
『一体何が目的なんだ?』
{せっかくの愛しの彼女に会えたと言うのに機嫌が悪そうだねぇ}
『お前は何者だ?』
{今は私が何者かを尋ねるよりも早く彼女を避難させるべきだね。ホテルオーシャン東京に爆弾を仕掛けた。爆破時刻は10時30分。嘘だと思うのならあと10秒待ってごらん}
直後、近くで爆発音がした。驚いたスタッフがバルコニーに出て様子を窺っている。
{今のは台場公園に仕掛けた爆弾だ。威力はせいぜい公園の木々を吹き飛ばす程度。だがホテルに仕掛けた爆弾はこの何倍もの威力がある。君が今いる場所を簡単に吹き飛ばしてしまうだろうね}
早河はホテルのメモ用紙に台場公園、爆破、ホテルオーシャン東京、爆弾、10時半と乱雑に書いて香道に渡した。メモを見た香道は頷いて室内にいる玲夏とスタッフ達の誘導を始める。
『こんなことをして何になる? 金を手に入れたいんじゃないのか?』
{私の目的は金ではない。もう少しだなぁ。私の目的が何か、頭をひねって考えてみるといい}
通話の切れた受話器からはもう何も聞こえない。廊下やエレベーターホールは玲夏達や他の宿泊客、対応に追われる刑事とホテルの従業員で混雑している。
エレベーターホールとは逆の方向に行く早河を玲夏が引き留めた。
「仁! どこ行くの?」
『玲夏は香道さん達の指示に従ってくれ。ここに爆弾が仕掛けられているかもしれない。早くホテルを出るんだ。後で連絡するから』
玲夏の制止を振り切って早河は人の波とは逆方向に向かった。爆弾を仕掛けるとすれば非常階段か、客室か、それともホテル設備のどこか……。
人気女優の本庄玲夏がホテルオーシャン東京で撮影をしていると宿泊客の数名がネットに書き込んだことで、ホテルの前は玲夏を一目見ようと人だかりができていた。おまけに台場公園の爆破騒動で駆けつけた報道陣もホテルの前に詰めかけている。
ここに爆破予告があったにもかかわらず、本庄玲夏を見ることしか頭にない連中はどれだけ刑事達が制止をしてもホテル内に入ろうとする。玲夏はスタッフに囲まれてすでにホテルの裏口から外に出ていた。
騒然とするホテルから早河が待避した時、時間は10時25分だった。ギリギリまで爆発物を探したが何も見つけられなかった。
爆破予告の10時30分を10秒過ぎたが何も起きない。放心して半円形のホテルを見上げる早河の携帯電話が鳴った。着信は上野だ。
{早河、やられたよ。本来の目的はこっちだったようだ}
『まさか人質が……』
{いや、人質の安否はまだわからない。殺られたのは門倉警視総監だ。総監が射殺された}