早河シリーズ第一幕【影法師】
香道の不在を訝しみつつ、早河はまた物思いに耽る。
夏、蝉、日差し、影……もう少し、もう少しで手が届きそうなんだ。何かを掴めそうなんだ。
(夏……親父が死んだのも夏だった)
今日は8月10日。明日は父親の命日だ。
12年前、高校2年生の夏休みに父親は死んだ。父の死因の大まかな事情はかつて父の部下であった上野警部から聞いている。
父の早河武志は刑事時代からある犯罪組織を追っていた。警察を辞めて探偵になった後も父はその組織を追い続けた。
12年前の8月11日に組織のトップを追い詰め、そして殺された。そのトップも死んだと聞かされた。
早河は天井を仰ぎ見る。
(どうして俺は刑事になった?)
幼少期に母を亡くし、父が死んで天涯孤独になった早河は高校卒業まで父方の伯父夫妻の家に預けられた。伯父夫妻は早河を快く受け入れ、大学進学まで薦められたが金銭的に裕福とは言えない伯父夫妻にこれ以上迷惑をかけたくなかった。
高校を卒業後に働くつもりでいた早河が最終的に選んだ道は父と同じ警察官の道だった。伯父夫妻には命の危険も伴う道だと反対されたがそれでも早河は警察の道を選んだ。
3年前に新宿西警察署から警視庁捜査一課に異動となり、先輩刑事の香道秋彦とバディを組んだ。
新宿西警察署にいた頃、未成年者の違法薬物使用事件とそれに関連した連続殺人事件が発生し、警視庁との合同捜査となった。
(※【白昼夢 スピンオフ】収録の事件)
香道と初めて顔を合わせたのはその合同捜査本部の場だった。あの頃はまさか香道とバディを組む未来が来るなんて予想もしていなかった。
恋人の本庄玲夏とは警視庁に配属されて数ヶ月後にテレビ局で起きた殺人事件を通じて知り合った。テレビ局の局員が殺害されたその事件では早河が玲夏に事情を訊ねる機会があり、刑事と女優と言う絶対に交わらない人生を歩んでいた二人の人生が交わった瞬間だった。
翌年に偶然にも玲夏の幼なじみの小山真紀が警視庁捜査一課配属になり、真紀の計らいで早河と玲夏は再会した。早河と玲夏が惹かれ合い、恋人になったのもごく自然な流れだった。
あの頃の玲夏は野心に燃えていた。主演女優となった今も彼女の向上心や野心の炎は燃え続けているが、早河と出会ったばかりの玲夏はまだ女優としては駆け出しで、ヒロインの恋敵や脇役を演じることが多かった。
“私は絶対に主演を張る女優になってみせる”あの頃の玲夏の口癖だ。早河にはそんな玲夏が眩しく見えた。自分にはそんな風に言える夢も目標もない。
父と同じ警察官の道を選んだ理由も“なんとなく”だった。
毎日毎日、終わりのない事件と戦うだけの日々。
何のために刑事を続けているのか? 自分は何のために戦っているのだろう?
夏、蝉、日差し、影……もう少し、もう少しで手が届きそうなんだ。何かを掴めそうなんだ。
(夏……親父が死んだのも夏だった)
今日は8月10日。明日は父親の命日だ。
12年前、高校2年生の夏休みに父親は死んだ。父の死因の大まかな事情はかつて父の部下であった上野警部から聞いている。
父の早河武志は刑事時代からある犯罪組織を追っていた。警察を辞めて探偵になった後も父はその組織を追い続けた。
12年前の8月11日に組織のトップを追い詰め、そして殺された。そのトップも死んだと聞かされた。
早河は天井を仰ぎ見る。
(どうして俺は刑事になった?)
幼少期に母を亡くし、父が死んで天涯孤独になった早河は高校卒業まで父方の伯父夫妻の家に預けられた。伯父夫妻は早河を快く受け入れ、大学進学まで薦められたが金銭的に裕福とは言えない伯父夫妻にこれ以上迷惑をかけたくなかった。
高校を卒業後に働くつもりでいた早河が最終的に選んだ道は父と同じ警察官の道だった。伯父夫妻には命の危険も伴う道だと反対されたがそれでも早河は警察の道を選んだ。
3年前に新宿西警察署から警視庁捜査一課に異動となり、先輩刑事の香道秋彦とバディを組んだ。
新宿西警察署にいた頃、未成年者の違法薬物使用事件とそれに関連した連続殺人事件が発生し、警視庁との合同捜査となった。
(※【白昼夢 スピンオフ】収録の事件)
香道と初めて顔を合わせたのはその合同捜査本部の場だった。あの頃はまさか香道とバディを組む未来が来るなんて予想もしていなかった。
恋人の本庄玲夏とは警視庁に配属されて数ヶ月後にテレビ局で起きた殺人事件を通じて知り合った。テレビ局の局員が殺害されたその事件では早河が玲夏に事情を訊ねる機会があり、刑事と女優と言う絶対に交わらない人生を歩んでいた二人の人生が交わった瞬間だった。
翌年に偶然にも玲夏の幼なじみの小山真紀が警視庁捜査一課配属になり、真紀の計らいで早河と玲夏は再会した。早河と玲夏が惹かれ合い、恋人になったのもごく自然な流れだった。
あの頃の玲夏は野心に燃えていた。主演女優となった今も彼女の向上心や野心の炎は燃え続けているが、早河と出会ったばかりの玲夏はまだ女優としては駆け出しで、ヒロインの恋敵や脇役を演じることが多かった。
“私は絶対に主演を張る女優になってみせる”あの頃の玲夏の口癖だ。早河にはそんな玲夏が眩しく見えた。自分にはそんな風に言える夢も目標もない。
父と同じ警察官の道を選んだ理由も“なんとなく”だった。
毎日毎日、終わりのない事件と戦うだけの日々。
何のために刑事を続けているのか? 自分は何のために戦っているのだろう?