早河シリーズ第一幕【影法師】
 12年前、早河仁が高校2年生に進級した年。東京23区からは外れた東京都の郊外の街で早河は平凡で退屈な日々を過ごしていた。

 早河の通う高校は大学進学組と就職組が半々の、偏差値も普通ランクの共学校。この学校を選んだ理由は家から自転車で通える距離にあり、公立高校で学費も安い。それだけの理由。

それなりに友達もいて彼女もいた。将来の夢もなく単調で代わり映えのしない日々を消費するだけの毎日に飽き飽きしていても、平凡な高校生らしい日常だった。

 新しいクラスが編制されて1ヶ月が過ぎた皐月の季節。早河のクラスに転校生がやって来た。
色白で目鼻立ちの整った線の細い印象の男子生徒だ。

 高校生は皆、体格やタイプの違いはあれど中身はさして変わりはない。髪にこだわり、パーマや染髪をする者、アクセサリーや香水を身につけ制服を着崩す校則違反常習者は“不良”区分。

制服を規定通りに着ておとなしく授業を受け、大学進学クラスに属す“優等生”区分。
堂々と校則違反はしないが、かといって優等生でもない“普通”区分。男子も女子も大抵はこのどれかに当てはまり校内での立ち位置やカーストを確認している。

異なるのは見た目だけで中身は十代の年相応の高校生。まだまだ子供だ。少なくとも早河にはそう見えていた。
だが転校生はどの区分にも当てはまらない人間だった。

 転校生の焦げ茶色の髪の毛は地毛らしく、瞳の色も日本人のそれとは微妙に違っていた。細身の体躯に長い手足、校則通りに纏った詰め襟の学生服は彼には窮屈そうだ。

彼の容姿は端整と表すのが適切だった。それでいて紳士的な物腰の彼は“精神年齢小学生”の高校男子の中では異彩を放ち、女子からはリアル王子様と噂されていた。

 そんな目立つ風貌と女子生徒の噂の的になっていたこともあり転校生の彼は校内でも有名な不良グループの標的になっていた。
他人に無関心な早河には不良グループが転校生をパシりに使おうとイジメの標的にしようと知ったことではない。

 教室でも早河と彼の席は遠く離れていて、話す機会もなかった。だから穏やかな笑みを浮かべて女子生徒と会話をする彼を、英語の授業で発揮された流暢な英語の発音や語学力のレベルが一般の高校生レベル以上だった彼を、サッカーやバスケも器用にこなす彼を、特に気にしたことはなかった。
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