早河シリーズ第一幕【影法師】
早河は空を見上げた。見えるのは夏の青空と威勢よく輝く夏の太陽。
『……門倉唯の誘拐事件で俺に電話をしてきた犯人と同じような口調で話す男に心当たりがあります』
『なに? 本当か?』
『はい。名前は貴嶋佑聖、俺の高校の同級生です』
二人は早河家の墓石に別れを告げて霊園の石段を降りていく。
『キジマ……その男は今どこにいるんだ?』
『わかりません。貴嶋は……12年前に突然いなくなったんです。12年前の8月10日、それが貴嶋と最後に会った日でした』
『10日と言うと武志さんが亡くなる前日だな』
早河は頷く。早河と貴嶋が最後に会った日は8月10日、翌日に父の武志は辰巳佑吾に殺された。
──この世に神はいると思う?──
あの日の貴嶋の意味深長な質問がリフレインする。
『親父の12年前の8月10日の日記に書いてあったんです。“仁と彼が一緒に歩いているところを見た”と。俺と母さんのためにもすべてを話さなければいけない……とも。俺はその日、貴嶋と一緒にいたんです。親父の日記にある“彼”とは貴嶋のことだと思います』
上野は黙って早河の話を聞いていた。少しずつ揃っていく欠けていたピース。少しずつ取り戻していくあの夏の記憶、少しずつ鮮明になる逆光の向こう側。
『母さんが事故死じゃなかったと知って俺の中で何かがひとつに繋がった気がします。母さんのためと親父が言うからには、もしかしたら母さんの死と貴嶋が何か関係があるんじゃないかと……』
石段を降りると駐車場が見える。盆休みに突入した土曜日とあって、駐車場の半分は墓参りに訪れた者達の車で埋まっていた。
『お前はカオスとキジマが繋がっていると考えているのか?』
上野の車の前で二人は立ち止まった。早河は溜息をついてうなだれている。
『俺、貴嶋のこと何も知らないんです。アイツと一緒にいた期間は半年もなかった。家族構成もどこに住んでいるのかも……何も知らないままアイツは俺の前から消えたんです』
『わかった。キジマについては俺も調べてみる。お前は今日はゆっくり休め』
上野は早河を慰撫し、先に霊園を後にした。上野の車を見送った早河も自分の車に乗り込む。
先ほど上野から受け取った父の形見のライターを光に照らした。
ライターには父のイニシャルのT.Hの刻印。早河武志から上野へ、そして息子の早河の手元にやって来た古びた銀色のライターは何を物語っているのだろうか。
『……門倉唯の誘拐事件で俺に電話をしてきた犯人と同じような口調で話す男に心当たりがあります』
『なに? 本当か?』
『はい。名前は貴嶋佑聖、俺の高校の同級生です』
二人は早河家の墓石に別れを告げて霊園の石段を降りていく。
『キジマ……その男は今どこにいるんだ?』
『わかりません。貴嶋は……12年前に突然いなくなったんです。12年前の8月10日、それが貴嶋と最後に会った日でした』
『10日と言うと武志さんが亡くなる前日だな』
早河は頷く。早河と貴嶋が最後に会った日は8月10日、翌日に父の武志は辰巳佑吾に殺された。
──この世に神はいると思う?──
あの日の貴嶋の意味深長な質問がリフレインする。
『親父の12年前の8月10日の日記に書いてあったんです。“仁と彼が一緒に歩いているところを見た”と。俺と母さんのためにもすべてを話さなければいけない……とも。俺はその日、貴嶋と一緒にいたんです。親父の日記にある“彼”とは貴嶋のことだと思います』
上野は黙って早河の話を聞いていた。少しずつ揃っていく欠けていたピース。少しずつ取り戻していくあの夏の記憶、少しずつ鮮明になる逆光の向こう側。
『母さんが事故死じゃなかったと知って俺の中で何かがひとつに繋がった気がします。母さんのためと親父が言うからには、もしかしたら母さんの死と貴嶋が何か関係があるんじゃないかと……』
石段を降りると駐車場が見える。盆休みに突入した土曜日とあって、駐車場の半分は墓参りに訪れた者達の車で埋まっていた。
『お前はカオスとキジマが繋がっていると考えているのか?』
上野の車の前で二人は立ち止まった。早河は溜息をついてうなだれている。
『俺、貴嶋のこと何も知らないんです。アイツと一緒にいた期間は半年もなかった。家族構成もどこに住んでいるのかも……何も知らないままアイツは俺の前から消えたんです』
『わかった。キジマについては俺も調べてみる。お前は今日はゆっくり休め』
上野は早河を慰撫し、先に霊園を後にした。上野の車を見送った早河も自分の車に乗り込む。
先ほど上野から受け取った父の形見のライターを光に照らした。
ライターには父のイニシャルのT.Hの刻印。早河武志から上野へ、そして息子の早河の手元にやって来た古びた銀色のライターは何を物語っているのだろうか。