早河シリーズ第一幕【影法師】
 午後4時が過ぎた頃、空を覆う黒い雲から雨が降ってきた。

「かなり広い範囲で降ってますね」

 小山真紀がつけたテレビの天気予報では気象予報士が現在の関東地方の天気を伝えている。雨雲は東京、千葉、神奈川、埼玉を覆い隠し、今後も関東の広範囲で激しい雨が降る予報だ。

早河は窓の外を見た。黒い雲から流れ落ちる雨が激しく窓に打ち付けている。

(もし辰巳の子供が貴嶋だったら……)

 突如、捜査一課のフロアに鳴り響く緊急放送のアナウンス。物思いに耽っていた早河も放送に耳を傾けた。

{寺町《てらまち》法務大臣が拉致された。署内にいる捜査員は至急、大会議室に集合}

『寺町大臣が拉致?』

 ソファーで仮眠中だった香道秋彦も放送を聞いて跳ね起きた。20分後には捜査一課のほぼすべての刑事が大会議室に集まり、寺町法務大臣拉致事件、特別捜査本部の第一回捜査会議が開始した。

『本日午後3時50分頃、寺町喜久法務大臣が何者かに拉致された』

 捜査本部の指揮官の合図で大会議室のスクリーンには警視庁宛に届いた動画が映された。手足を縛られて拘束されている寺町法務大臣を撮影した動画だ。

『動画の送り主はイイジマユウスケと名乗っており、先月発生した門倉元警視総監の孫を誘拐した犯人と同じ名前を使ったことから、同一人物または同一グループの犯行と考えられる』

どよめく会議室の中で早河は端の席に着席して動画を睨みつけた。

(またイイジマユウスケか)

 門倉元警視総監射殺事件との関連性や大臣を狙った国家テロの可能性も視野に入れ、捜査一課と組織犯罪対策部、警視庁公安部の合同捜査となった。

会議室には先ほど会談した組織犯罪対策部の石川警部の姿も見えた。
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