早河シリーズ第一幕【影法師】
やがてエレベーターが30階に到着した。長い廊下をキングについて歩いていくとキングがある部屋の前で歩みを止めた。
『3003……ここだね』
キングが3003号室の扉にキーを差し込む。ロック解除の音と共に扉が開かれた。
「うわぁ……! 凄い」
部屋に一歩入った美月は豪奢な内装に圧倒された。室内には毛足の長いモスグリーンの絨毯が敷かれ、大きなソファーと大きなテレビ、丸いダイニングテーブル。
もうひとつの部屋はベッドルームのようだ。
『こらこら、はしゃぐのは後。まずはシャワーを浴びないとね。こっちがバスルームだよ』
はしゃぐ美月を微笑ましく見つめて、キングは彼女をバスルームに案内する。バスルームを見た美月はさらに感動した。
自宅の何倍もの広さの浴室には大きくて真っ白な浴槽に、テレビまでついている。
『脱いだものはこの中に入れて、洗面台に置いてね。私が洗濯を頼んでおくよ』
キングに渡されたのはホテルのロゴの入る不透明のビニール袋だ。
『ゆっくり温まりなさい』
彼は美月をバスルームに残して扉を閉めた。ひとりになった美月は濡れてしまった服や下着を脱ぎ、ホテルのロゴの入るビニール袋に入れる。
念のため身体にバスタオルを巻いた状態で隣の洗面所に繋がる扉を細く開けた。ここに置いておけばきっと頃合いを見計らってキングが服を取りに来るのだろう。
(キングって何者なんだろ。こんなお金持ちしか泊まれないようなホテルの部屋借りちゃうくらいだからどこかの社長さんなのかなぁ? ホテルの人もみんなキングに頭下げてた)
バスルームに戻り、温かいシャワーを全身に浴びる。今は夏と言っても雨に打たれて冷えた身体にシャワーの温かさがとても染みた。
アメニティのシャンプーやボディーソープは美月も知っている海外ブランドの製品で、一度は使ってみたいと思っていた憧れの物達だ。バスルームがシャンプーの甘い香りに包まれる。
身体が温まってくるにつれて、それまで鈍っていた思考もこの奇怪な状況に不安を感じるほどには覚めてきた。
(キングはこんな所に私を連れて来てどうするつもり? いきなり襲うような人には見えないけど、人は見かけによらないって言うし……なんでついて来ちゃったの私!)
浴槽に湯を溜めながら自分をここに連れて来た謎の紳士について考えを巡らせる。
キングと言う名前以外は彼のことを何も知らない。もちろんキングの名称も本名ではない。
年齢も職業も知らない。どうして名前も知らない男の車に乗ってしまったのか、どうしてこんな場所までついて来てしまったのか、我ながら危機管理の甘さに呆れる。
(相手がキングだったから、なんとなく安心してついて来ちゃったんだよね)
湯船にアメニティの入浴剤を入れてみた。乳白色に色付く水面からはラベンダーの香りがした。
そうして随分と長湯をしてしまった。あれからどれくらい経っただろう?
入浴前に洗面台に置いた美月の濡れた衣服はここにはなかった。キングは気配もなく現れる男だ。彼が洗面所にいつ服を取りに来たのか美月は知らない。
まだ服がないので裸体にバスローブを羽織る。下着も身につけないままは落ち着かないが洗濯中なので仕方ない。
洗面台に揃うアメニティには化粧水や乳液、ボディークリームまであった。大きな鏡を覗き込んでアメニティの化粧水を使ってスキンケアをする。化粧水も乳液もボディークリームも、どれも一流のコスメブランドの商品だった。
『3003……ここだね』
キングが3003号室の扉にキーを差し込む。ロック解除の音と共に扉が開かれた。
「うわぁ……! 凄い」
部屋に一歩入った美月は豪奢な内装に圧倒された。室内には毛足の長いモスグリーンの絨毯が敷かれ、大きなソファーと大きなテレビ、丸いダイニングテーブル。
もうひとつの部屋はベッドルームのようだ。
『こらこら、はしゃぐのは後。まずはシャワーを浴びないとね。こっちがバスルームだよ』
はしゃぐ美月を微笑ましく見つめて、キングは彼女をバスルームに案内する。バスルームを見た美月はさらに感動した。
自宅の何倍もの広さの浴室には大きくて真っ白な浴槽に、テレビまでついている。
『脱いだものはこの中に入れて、洗面台に置いてね。私が洗濯を頼んでおくよ』
キングに渡されたのはホテルのロゴの入る不透明のビニール袋だ。
『ゆっくり温まりなさい』
彼は美月をバスルームに残して扉を閉めた。ひとりになった美月は濡れてしまった服や下着を脱ぎ、ホテルのロゴの入るビニール袋に入れる。
念のため身体にバスタオルを巻いた状態で隣の洗面所に繋がる扉を細く開けた。ここに置いておけばきっと頃合いを見計らってキングが服を取りに来るのだろう。
(キングって何者なんだろ。こんなお金持ちしか泊まれないようなホテルの部屋借りちゃうくらいだからどこかの社長さんなのかなぁ? ホテルの人もみんなキングに頭下げてた)
バスルームに戻り、温かいシャワーを全身に浴びる。今は夏と言っても雨に打たれて冷えた身体にシャワーの温かさがとても染みた。
アメニティのシャンプーやボディーソープは美月も知っている海外ブランドの製品で、一度は使ってみたいと思っていた憧れの物達だ。バスルームがシャンプーの甘い香りに包まれる。
身体が温まってくるにつれて、それまで鈍っていた思考もこの奇怪な状況に不安を感じるほどには覚めてきた。
(キングはこんな所に私を連れて来てどうするつもり? いきなり襲うような人には見えないけど、人は見かけによらないって言うし……なんでついて来ちゃったの私!)
浴槽に湯を溜めながら自分をここに連れて来た謎の紳士について考えを巡らせる。
キングと言う名前以外は彼のことを何も知らない。もちろんキングの名称も本名ではない。
年齢も職業も知らない。どうして名前も知らない男の車に乗ってしまったのか、どうしてこんな場所までついて来てしまったのか、我ながら危機管理の甘さに呆れる。
(相手がキングだったから、なんとなく安心してついて来ちゃったんだよね)
湯船にアメニティの入浴剤を入れてみた。乳白色に色付く水面からはラベンダーの香りがした。
そうして随分と長湯をしてしまった。あれからどれくらい経っただろう?
入浴前に洗面台に置いた美月の濡れた衣服はここにはなかった。キングは気配もなく現れる男だ。彼が洗面所にいつ服を取りに来たのか美月は知らない。
まだ服がないので裸体にバスローブを羽織る。下着も身につけないままは落ち着かないが洗濯中なので仕方ない。
洗面台に揃うアメニティには化粧水や乳液、ボディークリームまであった。大きな鏡を覗き込んでアメニティの化粧水を使ってスキンケアをする。化粧水も乳液もボディークリームも、どれも一流のコスメブランドの商品だった。