早河シリーズ第一幕【影法師】
 暴かれていく真相、知りたくなかった12年前の真実。

『そう。私は犯罪組織カオスのキング、辰巳佑吾のただひとりの息子だよ。実に理解し難いことではあるが、私の母親はあの男を愛していたようでね。結果、私が産まれたわけだ』

 貴嶋があの男と呼ぶ人物が辰巳佑吾、母親が貴嶋聖子。早河の予想通りだった。

『お前の母親について聞いていいか?』
『私に答えられることなら答えよう』
『お前が産まれる直前、貴嶋聖子の父親は自家用ヘリの操縦中に事故死している。あれは本当に事故だったのか?』

早河は抱いていた疑念を口にした。貴嶋は表情ひとつ変えずに彼を見据えている。

『何かと思えばそんな事か。さぁね。会ったこともない祖父の死の原因に興味もないから私も詳しく調べてはいないよ。ただ……祖父は母と辰巳の交際を認めていなかったようだからね。辰巳が祖父を殺していてもおかしくはない』

 貴嶋は自分の父親について他人事のように淡々と語る。彼は辰巳佑吾も殺したと言ったが、なぜ父親まで殺す必要があった?
聞きたいことは山ほどあるのに次の言葉が出てこない。

 黙考する早河に対して貴嶋は薄ら笑いを浮かべている。

『まだ話していないことがあったね。私はね、君と同じ学校に転入して君と同じクラスになり、友と呼べる間柄になったことを偶然だと思っていたんだ。まさかそれが辰巳佑吾の計画だとは知らずに』
『辰巳の計画? 俺と同じ学校に転校してきたのは偶然じゃなかったんだな?』
『そうさ。父は宿敵である早河武志の息子の君を監視していた。君が幼い頃から父はずっと君を狙っていたんだよ。早河氏の息の根をどうやって止めようか画策して愉しんでいたんだ。我が父ながら執念深くて悪趣味な男だと思う』

 14歳で両親を殺害、その後無差別殺人を犯した凶悪犯罪者の辰巳に命を狙われ続けていたと思うとゾッとする。

そして今は辰巳の息子と対峙している。昔の友人としてではなく、刑事と犯罪者として。

『父は君を監視させる目的で私を転入させた。あの男は私に君を殺させるつもりだった』
『だけどお前は俺を殺さなかった』
『そう、殺せなかった。君は友達だったから。でもあの頃の私はまだ甘かった。何もわかっていなかった。あの時、父の命令通りに君を殺しておけばよかったと悔やむよ。君が早河氏と同じ警察官の道を選ぶとはね』

 貴嶋が手にした拳銃の銃口がこちらを向いた。
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