早河シリーズ第一幕【影法師】
銃口を向けられても早河は動じない。早河の銃口も貴嶋に向いた。
『父親と同じ道を選んだのはお前も同じだろ』
『選んだんじゃない。私は産まれた時からカオスのキングになる運命だった。幼い頃からキングになるための教育を受けて来た。誰もが辰巳佑吾の後継者を私に望んだ。私にはそれ以外の道はない』
両者は一歩も動かず睨み合う。
『どうして辰巳を殺した? 父親なのに……』
『父親だからこそだ。キングの継承のためには必要なことだよ。辰巳佑吾の時代は終わり、新たな時代を私が築く。これが天地創造だ』
貴嶋の口調は憎らしいほど穏やかで、紡がれる死を孕んだ言葉と穏やかな口調のミスマッチが不気味だった。
『早河くん。君の動向はずっと把握していたよ。警視庁に配属された時はいよいよ再会の時が近付いたと嬉しくなった。そうそう、女優の彼女は元気かな?』
自分の知らない間に人生を監視されていた気持ちの悪さに耐えられず、早河は唸った。
『俺の親父を殺したのは辰巳の命令か?』
『いや、私の独断だ。私の築く新しい世界には君の父親も邪魔だったからね』
『お前は人の命をなんだと思ってるんだっ……!』
ついに早河は怒鳴り声をあげた。彼は拳銃の安全装置を解除して狙いを定める。
銃口の向こうにいる貴嶋は冷笑していた。
『だから神の存在が重要なんだ。もしも本当に神がいるのなら神とは残酷なお方だ。友人の父親と自分の父親を殺す瞬間を黙認しているのだから』
──この世に神はいると思う?──
12年前にまだ少年だった貴嶋の声がこだまする。
『親父はお前が辰巳の息子だと知っていた。親父の日記に書いてあったんだ。俺にすべてを話さなければならないって』
『敵の息子と自分の息子が仲良く肩を並べていたんだ。君の父親もさぞ驚いただろうね』
『結局、親父は俺に話す前にお前に殺されちまったけどな』
『恨むなら恨みたまえ。君が刑事になった時に思ったんだ。君と私は光と闇。私達は相対する道を並んで歩いているんだよ』
貴嶋が早河に向けて発砲した。早河はとっさに避けたが、銃弾が右肩をかすめた拍子に拳銃を落としてしまった。
早河の手を離れた銃は床を滑って貴嶋の足元に転がっていく。
『……俺を殺すのか?』
『辰巳佑吾、早河武志、そして君……私の天地創造のためには全員邪魔者でしかない。たとえかつての友人であろうとも殺すよ』
肩の痛みに顔を歪めて早河はひざまずいた。荒い呼吸を繰り返して貴嶋をねめつける。
『お前の言うとおり、神って奴は残酷かもしれない。だが神は人殺しを黙って見ているわけじゃねぇよ。神は人殺しにちゃんと罰を与えてる。犯罪者と言う一生消えない罰だ』
右肩の傷を押さえた左手は真っ赤に汚れていた。早河は血に染まる手を握り締める。
『生憎、俺は神じゃないからな。お前が人を殺すのを黙認する気はない。俺が止める。俺がお前を牢屋にぶちこんでやるよ』
『君は本当に面白いね。私を止められると思っているのかい?』
『止めるさ。命懸けでな』
チャンスは一度きり。貴嶋の死角に入ればまだ勝機はある。
『……残念だけど君には無理だ』
貴嶋は一瞬だけ早河の後方に視線を向け、再び早河に狙いを定めてトリガーを引いた。
『父親と同じ道を選んだのはお前も同じだろ』
『選んだんじゃない。私は産まれた時からカオスのキングになる運命だった。幼い頃からキングになるための教育を受けて来た。誰もが辰巳佑吾の後継者を私に望んだ。私にはそれ以外の道はない』
両者は一歩も動かず睨み合う。
『どうして辰巳を殺した? 父親なのに……』
『父親だからこそだ。キングの継承のためには必要なことだよ。辰巳佑吾の時代は終わり、新たな時代を私が築く。これが天地創造だ』
貴嶋の口調は憎らしいほど穏やかで、紡がれる死を孕んだ言葉と穏やかな口調のミスマッチが不気味だった。
『早河くん。君の動向はずっと把握していたよ。警視庁に配属された時はいよいよ再会の時が近付いたと嬉しくなった。そうそう、女優の彼女は元気かな?』
自分の知らない間に人生を監視されていた気持ちの悪さに耐えられず、早河は唸った。
『俺の親父を殺したのは辰巳の命令か?』
『いや、私の独断だ。私の築く新しい世界には君の父親も邪魔だったからね』
『お前は人の命をなんだと思ってるんだっ……!』
ついに早河は怒鳴り声をあげた。彼は拳銃の安全装置を解除して狙いを定める。
銃口の向こうにいる貴嶋は冷笑していた。
『だから神の存在が重要なんだ。もしも本当に神がいるのなら神とは残酷なお方だ。友人の父親と自分の父親を殺す瞬間を黙認しているのだから』
──この世に神はいると思う?──
12年前にまだ少年だった貴嶋の声がこだまする。
『親父はお前が辰巳の息子だと知っていた。親父の日記に書いてあったんだ。俺にすべてを話さなければならないって』
『敵の息子と自分の息子が仲良く肩を並べていたんだ。君の父親もさぞ驚いただろうね』
『結局、親父は俺に話す前にお前に殺されちまったけどな』
『恨むなら恨みたまえ。君が刑事になった時に思ったんだ。君と私は光と闇。私達は相対する道を並んで歩いているんだよ』
貴嶋が早河に向けて発砲した。早河はとっさに避けたが、銃弾が右肩をかすめた拍子に拳銃を落としてしまった。
早河の手を離れた銃は床を滑って貴嶋の足元に転がっていく。
『……俺を殺すのか?』
『辰巳佑吾、早河武志、そして君……私の天地創造のためには全員邪魔者でしかない。たとえかつての友人であろうとも殺すよ』
肩の痛みに顔を歪めて早河はひざまずいた。荒い呼吸を繰り返して貴嶋をねめつける。
『お前の言うとおり、神って奴は残酷かもしれない。だが神は人殺しを黙って見ているわけじゃねぇよ。神は人殺しにちゃんと罰を与えてる。犯罪者と言う一生消えない罰だ』
右肩の傷を押さえた左手は真っ赤に汚れていた。早河は血に染まる手を握り締める。
『生憎、俺は神じゃないからな。お前が人を殺すのを黙認する気はない。俺が止める。俺がお前を牢屋にぶちこんでやるよ』
『君は本当に面白いね。私を止められると思っているのかい?』
『止めるさ。命懸けでな』
チャンスは一度きり。貴嶋の死角に入ればまだ勝機はある。
『……残念だけど君には無理だ』
貴嶋は一瞬だけ早河の後方に視線を向け、再び早河に狙いを定めてトリガーを引いた。