早河シリーズ第一幕【影法師】
9月3日(Mon)

 警視庁の地を踏んだ早河は笹本警視総監に呼ばれた。笹本は門倉元警視総監時代に副総監だった男だ。
警視総監室に入ると笹本が早河に警察手帳を渡した。

『今後、犯罪組織カオスの捜査は禁ずる。わかったね?』

一礼して部屋を出ようとした早河は足を止めて振り返る。デスクにいる笹本がこちらを睨み付けていた。

『理由を教えていただけますか?』
『理由などない。カオスにも貴嶋佑聖にも君は関わらないように。それだけだ』

 早河と笹本の睨み合いが数秒続く。相手は警視庁トップの警視総監だ。従わなければどうなるか、そんなものくそ食らえだ。

『辰巳は安田元総理の曾孫らしいですね。つまり辰巳の息子の貴嶋も安田家の血筋。警察も結局は政治と金ですか』

 笹本に吐き捨てて早河は警視総監室を出た。再び手元に戻ってきた警察手帳を見つめる。この組織に囚われている限り、自分も組織の小さな駒に過ぎない。それならば……。

警察手帳をスーツの胸ポケットにしまう。

(どうしたって俺は親父と同じ道を生きる運命なのかもしれない)

 覚悟ならすでに決まっていた。
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