早河シリーズ第一幕【影法師】
室内にはカラオケの設備まであり、ビジネスルームとは言っても居酒屋にいる気分だ。
『タケさんが俺らの社長みたいなものか』
『そうだぞ。公務員を辞めたお前が誰のおかげで生き延びてると思う? 社長と言うからにはもう少し私を敬ってマッサージチェアでも買ってこい』
武田は相変わらずウイスキーをちびちび舐めている。酒豪な国会議員だ。
『タケさんのどこを敬えって? マッサージチェアならタケさんの家にくそ高いヤツが何台もあるだろ。いつもは年寄り扱いするなって言うくせに』
早河と武田のやりとりは息子と父親のやりとりに似ていて、なぎさは早河の知らない一面を垣間見れて微笑ましかった。
軽食を済ませたなぎさを先に店の方に戻して早河と武田はビジネスルームに残った。
『お前、本当に彼女を守れるのか?』
『守りきれるか自信はない。でもあの子の気持ちはわかるから』
『あの子に惚れたか?』
『なんですぐにそっちの方向に話が行くんだよ。今は愛や恋なんて考えてる暇ねぇよ』
早河は舌打ちした。いつもいつもこの老人は人をからかうことばかり言う。惚れた腫れたの色恋事なんて、今の早河に考えている余裕はない。
『ハハッ。そう言っていられるうちはいいがな。怖いのはお前かあの子、どちらかが相手に惚れた場合だ。仁、同情と愛情を間違えるなよ。同情するくらいなら愛してやれ』
『俺の女になったら不幸になるだけだよ』
視線を落として彼は呟いた。不幸にしたくないから別れた元恋人の顔は、テレビをつければ嫌でも目にする。
『いいじゃないか。一緒に地獄へ堕ちてくれる女は最高だぞ』
『はぁー……。それ絶対に実体験だろ。なぎさ待たせてるしもう行くから』
早河は武田に背を向けてビジネスルームの長い廊下に出た。薄暗い廊下の床にぼんやりと自分の影が浮かんでいる。
いつの間にか独りになった影法師。
離れていく影法師
並んで歩いていた影法師
アイツは今どこにいるんだろう……。
第五章 END
→エピローグに続く
『タケさんが俺らの社長みたいなものか』
『そうだぞ。公務員を辞めたお前が誰のおかげで生き延びてると思う? 社長と言うからにはもう少し私を敬ってマッサージチェアでも買ってこい』
武田は相変わらずウイスキーをちびちび舐めている。酒豪な国会議員だ。
『タケさんのどこを敬えって? マッサージチェアならタケさんの家にくそ高いヤツが何台もあるだろ。いつもは年寄り扱いするなって言うくせに』
早河と武田のやりとりは息子と父親のやりとりに似ていて、なぎさは早河の知らない一面を垣間見れて微笑ましかった。
軽食を済ませたなぎさを先に店の方に戻して早河と武田はビジネスルームに残った。
『お前、本当に彼女を守れるのか?』
『守りきれるか自信はない。でもあの子の気持ちはわかるから』
『あの子に惚れたか?』
『なんですぐにそっちの方向に話が行くんだよ。今は愛や恋なんて考えてる暇ねぇよ』
早河は舌打ちした。いつもいつもこの老人は人をからかうことばかり言う。惚れた腫れたの色恋事なんて、今の早河に考えている余裕はない。
『ハハッ。そう言っていられるうちはいいがな。怖いのはお前かあの子、どちらかが相手に惚れた場合だ。仁、同情と愛情を間違えるなよ。同情するくらいなら愛してやれ』
『俺の女になったら不幸になるだけだよ』
視線を落として彼は呟いた。不幸にしたくないから別れた元恋人の顔は、テレビをつければ嫌でも目にする。
『いいじゃないか。一緒に地獄へ堕ちてくれる女は最高だぞ』
『はぁー……。それ絶対に実体験だろ。なぎさ待たせてるしもう行くから』
早河は武田に背を向けてビジネスルームの長い廊下に出た。薄暗い廊下の床にぼんやりと自分の影が浮かんでいる。
いつの間にか独りになった影法師。
離れていく影法師
並んで歩いていた影法師
アイツは今どこにいるんだろう……。
第五章 END
→エピローグに続く