早河シリーズ第二幕【金平糖】
(でもまだ終わっていない)

 彼女は温かい紅茶のカップを両手で包む。今夜は一段と冷える夜だ。
けれど寒々しく感じるのは冬のせいだけではない。

 “この事件の裏にはアイツがいる”と、山梨から戻って来た早河が言っていた。
それだけで早河となぎさには通じる人物がいる。

なぎさはまだその姿を見たことがない犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖。兄を殺した憎むべき男。

 売春組織MARIAのアジトだったあの道玄坂二丁目のビルを造ったのは貴嶋だった。幻の地下二階と売春組織MARIAは5年前から存在している。

佐伯洋介が聖蘭学園に着任したのは5年前の4月。彼が高山美晴を殺害したのが7月。
ビルが完成したのが8月、施工を請け負ったのはゼネコン大手の樋口コーポレーション。この企業がカオスと関係しているのかは不明だ。

ビルのテナントの記録からMARIAの歴史を遡ると、MARIAが活動を始めたのは10月頃だ。

 意図的か偶然か、すべてが5年前の2003年に集中している。

 早河からメールの返信が来た。ロシアに出張中の高山政行は成田空港に17日着の便で帰国する。それまで有紗を頼むとの内容だった。

聖蘭学園も明日は臨時の休校になるらしい。教師が連続殺人事件の容疑者になっている。とてもじゃないが教師達も授業をしている余裕はない。

 やりきれない事件の顛末。溜息をついてなぎさは赤いソファーに腰かけた。
飾り棚にある写真立てが目に留まる。写真立の写真には兄、香道秋彦となぎさが笑顔を見せて二人で写っていた。

(お兄ちゃん……)


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