早河シリーズ第二幕【金平糖】
大きな振り子時計の振り子が左右に揺れる。年代物の時計の針は午後10時を示していた。
振り子時計が見守る中、二人の男がチェスをしている。
『何故ドラジェを生かしておいたんですか? あの男は我々が手を下さなくともいずれ死ぬ気でしたよ』
『ドラジェの生死に興味はないよ。私が興味があるのはドラジェの可愛いクララ、高山有紗の方さ』
貴嶋佑聖は金色の指輪を嵌めた右手で黒色の駒を動かした。対面のスパイダーが白色の駒を持つ。
『高山有紗? どうしてあんな子供を?』
『ドラジェの最終目的は高山有紗の殺害だろう? だが今、高山有紗に死なれてはつまらない。彼女は早河くんになついているようだ。香道なぎさと共に、今殺してしまうには惜しい。……スパイダー、これでチェックメイトだ』
チェス盤に並ぶ白と黒の駒は天使と悪魔のよう。白は黒になり、黒は白になる。
スパイダーが苦笑した。
『やはり、リザインするべきでした。僕はいつになればキングに勝てるんでしょうね』
『君は駒を大事にし過ぎだよ』
『大事にし過ぎですか?』
スパイダーの細長い指が白色のクイーンの駒を手に取る。
『切り捨てる駒と大事にするべき駒、その判断を間違えてはいけない。チェスも、人も』
『キングにとってこの駒は大事にするべき駒ですか?』
白色のクイーンが貴嶋の前に置かれた。貴嶋はスパイダーが置いた白のクイーンの隣に黒のクイーンを置く。
『クイーンはね、私の切り札だ。使う時までその存在すら秘密の……最強の切り札だよ』
白のクイーンと黒のクイーン。二つのクイーンは天使? 悪魔?
ノックの音の後、スコーピオンが部屋に男を連れて来た。恰幅のいいグレイヘアーの男が貴嶋を見て口元を上げる。
貴嶋が立ち上がった。
『やぁ、西山さん。ようこそ』
『今宵はお招きありがとう。キング』
グレイヘアの男は関東を牛耳る暴力団和田組の元四代目組長、西山哲二。組長が五代目となった今も相談役として権威を振るっている。
『ほう、チェスとは洒落てるね。私も将棋ならイけるんだが』
『では次は将棋を指しましょう。用意しておきますよ』
『ははっ。是非とも手合わせ願おう』
チェス盤はスパイダーが片付け、彼は西山相談役に会釈して部屋を出る。スコーピオンがワインの準備を始めていた。
『しかし息子の殺害を私に依頼するとは、あなたも悪い人だ』
『孝広は少々度が過ぎた。母親が甘やかして好き放題させてしまったからな』
向かい合って座る貴嶋と西山の前にワイングラスが置かれ、血のように赤いワインが注がれる。
『アレを消すにはうちの者を動かしてもよかったんだが、若頭がお縄になったばかりでね。連中も色々と気が立っている。君に頼めば確実だろう? それに私よりも君の方が恐ろしい男だと思うが。日本のヤクザの大半はカオスに吸収されとるようじゃないか』
二つのワイングラスの赤い液体が揺れる。
『力と力は引き合います。より強い力を持つ方に引き合い、そこに集まる。それだけのことです』
貴嶋はワインを喉に流し込み、不敵に微笑んだ。
振り子時計が見守る中、二人の男がチェスをしている。
『何故ドラジェを生かしておいたんですか? あの男は我々が手を下さなくともいずれ死ぬ気でしたよ』
『ドラジェの生死に興味はないよ。私が興味があるのはドラジェの可愛いクララ、高山有紗の方さ』
貴嶋佑聖は金色の指輪を嵌めた右手で黒色の駒を動かした。対面のスパイダーが白色の駒を持つ。
『高山有紗? どうしてあんな子供を?』
『ドラジェの最終目的は高山有紗の殺害だろう? だが今、高山有紗に死なれてはつまらない。彼女は早河くんになついているようだ。香道なぎさと共に、今殺してしまうには惜しい。……スパイダー、これでチェックメイトだ』
チェス盤に並ぶ白と黒の駒は天使と悪魔のよう。白は黒になり、黒は白になる。
スパイダーが苦笑した。
『やはり、リザインするべきでした。僕はいつになればキングに勝てるんでしょうね』
『君は駒を大事にし過ぎだよ』
『大事にし過ぎですか?』
スパイダーの細長い指が白色のクイーンの駒を手に取る。
『切り捨てる駒と大事にするべき駒、その判断を間違えてはいけない。チェスも、人も』
『キングにとってこの駒は大事にするべき駒ですか?』
白色のクイーンが貴嶋の前に置かれた。貴嶋はスパイダーが置いた白のクイーンの隣に黒のクイーンを置く。
『クイーンはね、私の切り札だ。使う時までその存在すら秘密の……最強の切り札だよ』
白のクイーンと黒のクイーン。二つのクイーンは天使? 悪魔?
ノックの音の後、スコーピオンが部屋に男を連れて来た。恰幅のいいグレイヘアーの男が貴嶋を見て口元を上げる。
貴嶋が立ち上がった。
『やぁ、西山さん。ようこそ』
『今宵はお招きありがとう。キング』
グレイヘアの男は関東を牛耳る暴力団和田組の元四代目組長、西山哲二。組長が五代目となった今も相談役として権威を振るっている。
『ほう、チェスとは洒落てるね。私も将棋ならイけるんだが』
『では次は将棋を指しましょう。用意しておきますよ』
『ははっ。是非とも手合わせ願おう』
チェス盤はスパイダーが片付け、彼は西山相談役に会釈して部屋を出る。スコーピオンがワインの準備を始めていた。
『しかし息子の殺害を私に依頼するとは、あなたも悪い人だ』
『孝広は少々度が過ぎた。母親が甘やかして好き放題させてしまったからな』
向かい合って座る貴嶋と西山の前にワイングラスが置かれ、血のように赤いワインが注がれる。
『アレを消すにはうちの者を動かしてもよかったんだが、若頭がお縄になったばかりでね。連中も色々と気が立っている。君に頼めば確実だろう? それに私よりも君の方が恐ろしい男だと思うが。日本のヤクザの大半はカオスに吸収されとるようじゃないか』
二つのワイングラスの赤い液体が揺れる。
『力と力は引き合います。より強い力を持つ方に引き合い、そこに集まる。それだけのことです』
貴嶋はワインを喉に流し込み、不敵に微笑んだ。