早河シリーズ第二幕【金平糖】
 ──目の前にいるコレがお母さん? 信じられなくて信じたくなかった

優しく髪を撫でてくれた手
抱き締めてくれた柔らかな感触の肌
有紗って名前を呼んでくれた唇
笑いかけてくれた瞳

もう今はいない
お母さんはもういない。

「お母さん……お……かぁさ……ん……」

 霊安室のベッドにいたのは骨だけになったお母さんの姿。
ずっと会いたかったお母さん
私はお母さんに捨てられたんじゃないかって、ずっと思っていた。でも違ったんだね。

『お帰り……美晴』

 お父さんが骨だけになったお母さんの手を握っている。お父さんは泣いていた。
私よりももっと大粒の涙を流してお父さんは泣いていた。

 ああ、私ってまだ子供だな
一番悲しいのは私じゃなくて、一番お母さんの帰りを待っていたのは私じゃなくて
お父さんだったんだ。

 私はお父さんのおおきな背中に抱き付いた。
お父さんにこんな風に抱き付かなくなったのはいつからだろう?
お父さんの背中は昔と変わらずおおきくてあったかい。

 夏祭りの帰りに、遊園地で遊んだ帰りに、
遊び疲れた私をおんぶしてくれた背中

お父さんにおんぶされると自分の背が大きくなったみたいで、隣に並ぶお母さんの笑った顔が私の目線の下にあるの

おおきな背中があったかくて安心して、いつも私はお父さんの背中で眠ってしまう

 だけど今はお父さんのおおきな背中は震えていた
私が支えていないと倒れてしまいそうだった
私はお父さんの背中にしがみついてお父さんの服を涙で濡らした。

お母さん、おかえりなさい
やっと家族三人が揃ったね

 ──金平糖は有紗の御守りだからね。必ず有紗を守ってくれるからね──

 お母さん、金平糖は御守りだったよ
お母さんはずっと、金平糖の中から私を守っていてくれたんだね

お母さん、お母さん……お母さん……
大好きだよ…………
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