早河シリーズ第二幕【金平糖】
「矢野さんにもあるんだけど、いないからコレ、矢野さんに渡して欲しいな」
『矢野はあちこち飛び回ってる奴だから。渡しておく』
矢野の分の黄色の袋は早河が受け取った。彼はデスクの一番下の引き出しから紙袋を出す。
『ん。俺となぎさからもクリスマスプレゼント』
「えっ……」
有紗は目を丸くした。薄いピンク色の紙袋を受け取ると彼女は中を覗き込む。
「嘘ぉ……プレゼント貰えるなんて思わなかった。開けていい?」
『いいよ。そんな大したものじゃないけどな』
紙袋の中からは白色のハンドバッグと小さな筒状の箱が出てきた。箱の中身は海外のコスメブランドのリップグロス。
「バッグとっても可愛い! このグロスも雑誌に載ってたやつだぁ!」
バッグとグロスを手に取って有紗は大喜びしている。
『バッグは俺から、そっちの化粧品はなぎさから』
「早河さん、なぎささん、ありがとう! 大切に使うね!」
初めて会った時の、冷めた目をして大人が嫌いだと吐き捨てていた有紗は今はいない。無邪気で素直な、これが本来の有紗の姿。
有紗は早河に抱き付いた。
「早河さんのこと諦めないからね。絶対、ぜーったい早河さんの彼女になるんだから」
『今よりもっといい女になったら考えてやるよ』
「そうやって余裕でいられるのも今のうちだよ! すぐにいい女になって誘惑してやるぅ」
早河の頬にキスをして彼から離れた有紗は荷物を持って扉の前で振り返った。見送りの二人に笑顔で手を振る。
『留学頑張れよ』
「うん。また帰ってきたら会いに来るね!」
金平糖の少女が去っていき、二人きりの探偵事務所は途端に静かになった。
有紗の手作りマフィンとクッキーが入る袋には金平糖が三粒入っている。金平糖の粒を灯りに照らしてぼうっと眺める早河をなぎさは一瞥した。
「所長、大変ですね。有紗ちゃんの為にも彼女作らないようにしないと」
『今のところそんな予定はないけどな。……今日はクリスマスイブか』
彼は金平糖を口に放り投げ、壁にかかるカレンダーに目をやる。今月から事務所にはなぎさが購入してきた高さ50センチの小さなクリスマスツリーが飾られていて、カレンダーの隣でクリスマスツリーが電飾を光らせている。
「そうですよー。イブにデートもしないで仕事なんて……」
有紗の手作りマフィンを食べながらなぎさは溜息混じりにパソコンを開く。早河は笑って、金平糖の甘い味の残る口元に煙草をくわえた。
『今夜の予定は?』
「なんにもないです」
『じゃあ定時で終わって夕方から一緒に出掛けるか?』
「出掛けるって……」
『今は急ぎの案件もない。どこか食事に行くくらいなら、連れて行ってやるけど』
そうは言ってもクリスマスイブの当日に入れる飲食店は限られている。どこの店もほとんど満席だろう。
それでもなぎさは嬉しそうに顔をほころばせた。
「なに奢ってもらおうかなぁ」
『俺の奢りかよ』
「だって所長が誘ったんですよ?」
『はいはい。なんでも奢りますよ』
「ケーキも食べたいし……あ、今から当日予約できるお店、ネットで探してみましょう! せっかくだからイルミネーションも見たいなぁ」
クリスマスツリーの7色のライトが事務所を彩る。早河探偵事務所は今日も明るい。
来年のクリスマスはどこで過ごしているでしょう?
誰と過ごしているでしょう?
早河シリーズ第二幕 金平糖 END
『矢野はあちこち飛び回ってる奴だから。渡しておく』
矢野の分の黄色の袋は早河が受け取った。彼はデスクの一番下の引き出しから紙袋を出す。
『ん。俺となぎさからもクリスマスプレゼント』
「えっ……」
有紗は目を丸くした。薄いピンク色の紙袋を受け取ると彼女は中を覗き込む。
「嘘ぉ……プレゼント貰えるなんて思わなかった。開けていい?」
『いいよ。そんな大したものじゃないけどな』
紙袋の中からは白色のハンドバッグと小さな筒状の箱が出てきた。箱の中身は海外のコスメブランドのリップグロス。
「バッグとっても可愛い! このグロスも雑誌に載ってたやつだぁ!」
バッグとグロスを手に取って有紗は大喜びしている。
『バッグは俺から、そっちの化粧品はなぎさから』
「早河さん、なぎささん、ありがとう! 大切に使うね!」
初めて会った時の、冷めた目をして大人が嫌いだと吐き捨てていた有紗は今はいない。無邪気で素直な、これが本来の有紗の姿。
有紗は早河に抱き付いた。
「早河さんのこと諦めないからね。絶対、ぜーったい早河さんの彼女になるんだから」
『今よりもっといい女になったら考えてやるよ』
「そうやって余裕でいられるのも今のうちだよ! すぐにいい女になって誘惑してやるぅ」
早河の頬にキスをして彼から離れた有紗は荷物を持って扉の前で振り返った。見送りの二人に笑顔で手を振る。
『留学頑張れよ』
「うん。また帰ってきたら会いに来るね!」
金平糖の少女が去っていき、二人きりの探偵事務所は途端に静かになった。
有紗の手作りマフィンとクッキーが入る袋には金平糖が三粒入っている。金平糖の粒を灯りに照らしてぼうっと眺める早河をなぎさは一瞥した。
「所長、大変ですね。有紗ちゃんの為にも彼女作らないようにしないと」
『今のところそんな予定はないけどな。……今日はクリスマスイブか』
彼は金平糖を口に放り投げ、壁にかかるカレンダーに目をやる。今月から事務所にはなぎさが購入してきた高さ50センチの小さなクリスマスツリーが飾られていて、カレンダーの隣でクリスマスツリーが電飾を光らせている。
「そうですよー。イブにデートもしないで仕事なんて……」
有紗の手作りマフィンを食べながらなぎさは溜息混じりにパソコンを開く。早河は笑って、金平糖の甘い味の残る口元に煙草をくわえた。
『今夜の予定は?』
「なんにもないです」
『じゃあ定時で終わって夕方から一緒に出掛けるか?』
「出掛けるって……」
『今は急ぎの案件もない。どこか食事に行くくらいなら、連れて行ってやるけど』
そうは言ってもクリスマスイブの当日に入れる飲食店は限られている。どこの店もほとんど満席だろう。
それでもなぎさは嬉しそうに顔をほころばせた。
「なに奢ってもらおうかなぁ」
『俺の奢りかよ』
「だって所長が誘ったんですよ?」
『はいはい。なんでも奢りますよ』
「ケーキも食べたいし……あ、今から当日予約できるお店、ネットで探してみましょう! せっかくだからイルミネーションも見たいなぁ」
クリスマスツリーの7色のライトが事務所を彩る。早河探偵事務所は今日も明るい。
来年のクリスマスはどこで過ごしているでしょう?
誰と過ごしているでしょう?
早河シリーズ第二幕 金平糖 END