早河シリーズ第二幕【金平糖】
早河仁と香道なぎさはJR四ッ谷駅近くにある珈琲専門店Edenでランチタイムを過ごしていた。Edenはコーヒーの他にパスタやサンドイッチの軽食も提供している。
なぎさが先に店の常連となり早河をここに連れて来たのは半年前だ。
マスターの田村の淹れるコーヒーは絶品で、コーヒー通の早河もすっかりこの店が気に入ってしまい、最近ではEdenでランチをすることも多くなっていた。
二階のカフェで二人はそれぞれ注文したパスタを頬張っている。
『聖蘭学園の生徒がまた殺られたな』
「はい。これで三人目ですね。ニュースに学校が映るたびに悲しくなります。こんな形で母校の名前を聞きたくなかったですよ」
聖蘭学園はなぎさの母校。彼女はうつむいて溜息をついた。
『そうだよな。しかし三人目か……』
早河はパスタを平らげてしまうと店に置いてあった週刊誌のページをめくる。聖蘭学園女子高生連続殺人事件とタイトルの書かれた記事を目で追った。
一人目の被害者は3年生の中村瑠璃、11月10日に死体で発見された。
二人目は2年生の池内眞子。死体発見日は11月30日。二人の死体発見場所はどちらも渋谷だった。
昨日発売の週刊誌には二人目の被害者の池内眞子の記事までしか載っていない。来週にはここに今朝発見された三人目の倉木理香の名前が加わることになりそうだ。
殺害方法は中村瑠璃が首を絞められた絞殺、二人目の池内眞子はスパナで頭を殴打された撲殺、三人目の倉木理香はナイフでの刺殺。
一人目の時も二人目の時も殺害した凶器は死体の側にあったと言う。同一犯の犯行ならば三人目の倉木理香を刺した凶器も現場にあったと早河は推測する。
報道によれば中村瑠璃の両親は大企業の経営者で瑠璃は社長令嬢だった。
池内眞子は茶道家元の孫娘、倉木理香の父親は弁護士、母親も司法関係者だ。
裕福な家の女子高生が連続して殺されたセンセーショナルな事件は傍観者を決め込む視聴者の興味を惹き、ワイドショーを盛り上げている。
なぎさもパスタを食べ終え、二人で食後のコーヒーを楽しむ。
『マスター。今日のコーヒーも旨いね』
『ありがとうございます』
常連となった早河にマスターの田村は愛想よく笑った。
『依頼人との約束は2時だっけ?』
「はい。高山政行さん、家出した娘さんを捜して欲しいとのことです」
今日の午前中に先方から連絡があり、飛び込みで入ってきた依頼だ。
『家出人捜索か。そんなもの警察に頼めばいいのにな』
「警察に頼みたくないから探偵に頼むんですよ。久しぶりのホワイトな仕事でいいじゃないですか」
なぎさは何故か嬉しそうだ。ブラックではなくホワイトな仕事の何がそんなに嬉しいのか早河にはわからない。
『その仕事をブラックとホワイトで分けるの、矢野の影響だろ』
「へへっ。だって矢野さんよく使うからつい」
なぎさが4月から早河探偵事務所で働いて迎えた初めての冬。探偵の助手の仕事も板についてきた。
田村はEdenを出た早河となぎさをにこやかに見送った後、バックヤードに下がって携帯電話を耳に当てた。
『……私です。はい、計画は順調のようですよ。キング』
通話の相手はもちろん、“あの男”だ。
なぎさが先に店の常連となり早河をここに連れて来たのは半年前だ。
マスターの田村の淹れるコーヒーは絶品で、コーヒー通の早河もすっかりこの店が気に入ってしまい、最近ではEdenでランチをすることも多くなっていた。
二階のカフェで二人はそれぞれ注文したパスタを頬張っている。
『聖蘭学園の生徒がまた殺られたな』
「はい。これで三人目ですね。ニュースに学校が映るたびに悲しくなります。こんな形で母校の名前を聞きたくなかったですよ」
聖蘭学園はなぎさの母校。彼女はうつむいて溜息をついた。
『そうだよな。しかし三人目か……』
早河はパスタを平らげてしまうと店に置いてあった週刊誌のページをめくる。聖蘭学園女子高生連続殺人事件とタイトルの書かれた記事を目で追った。
一人目の被害者は3年生の中村瑠璃、11月10日に死体で発見された。
二人目は2年生の池内眞子。死体発見日は11月30日。二人の死体発見場所はどちらも渋谷だった。
昨日発売の週刊誌には二人目の被害者の池内眞子の記事までしか載っていない。来週にはここに今朝発見された三人目の倉木理香の名前が加わることになりそうだ。
殺害方法は中村瑠璃が首を絞められた絞殺、二人目の池内眞子はスパナで頭を殴打された撲殺、三人目の倉木理香はナイフでの刺殺。
一人目の時も二人目の時も殺害した凶器は死体の側にあったと言う。同一犯の犯行ならば三人目の倉木理香を刺した凶器も現場にあったと早河は推測する。
報道によれば中村瑠璃の両親は大企業の経営者で瑠璃は社長令嬢だった。
池内眞子は茶道家元の孫娘、倉木理香の父親は弁護士、母親も司法関係者だ。
裕福な家の女子高生が連続して殺されたセンセーショナルな事件は傍観者を決め込む視聴者の興味を惹き、ワイドショーを盛り上げている。
なぎさもパスタを食べ終え、二人で食後のコーヒーを楽しむ。
『マスター。今日のコーヒーも旨いね』
『ありがとうございます』
常連となった早河にマスターの田村は愛想よく笑った。
『依頼人との約束は2時だっけ?』
「はい。高山政行さん、家出した娘さんを捜して欲しいとのことです」
今日の午前中に先方から連絡があり、飛び込みで入ってきた依頼だ。
『家出人捜索か。そんなもの警察に頼めばいいのにな』
「警察に頼みたくないから探偵に頼むんですよ。久しぶりのホワイトな仕事でいいじゃないですか」
なぎさは何故か嬉しそうだ。ブラックではなくホワイトな仕事の何がそんなに嬉しいのか早河にはわからない。
『その仕事をブラックとホワイトで分けるの、矢野の影響だろ』
「へへっ。だって矢野さんよく使うからつい」
なぎさが4月から早河探偵事務所で働いて迎えた初めての冬。探偵の助手の仕事も板についてきた。
田村はEdenを出た早河となぎさをにこやかに見送った後、バックヤードに下がって携帯電話を耳に当てた。
『……私です。はい、計画は順調のようですよ。キング』
通話の相手はもちろん、“あの男”だ。