早河シリーズ第二幕【金平糖】
 ビルの近くの道にはパトカーが数台停まっていてビル一階のコンビニの前には人だかりができている。

有紗はタカヒロの車を降りて先に地上二階のネットカフェに入った。店員の河村を見つけて彼に駆け寄る。

「ねぇねぇ河村さん! 外にパトカーたくさん停まってたけど何かあったの?」
『下のクラブに警察が集まってるんだよ。これはいよいよ来たかってさっきも常連さんと話してたとこ』

グラスの補充をしながら河村は笑っている。有紗は首を傾げた。

「いよいよって?」
『地下二階の摘発。地下二階のあれやこれやがバレたら色々まずいことになるだろうね。このビルの従業員も地下二階に世話になってる人多いし』
「他人事みたいに言ってるけど河村さんは大丈夫なの?」
『俺は地下二階とは無縁だからねー。一緒のビルだから警察に事情を聞かれることはあるかもしれないけど、東堂孝広みたいに警察に突っつかれてやましいことは何もないからさ』

 タカヒロの名前が出て有紗は動揺する。河村は騒動には我関せずな態度で有紗に追加料金の催促をして、さっさと他の仕事に行ってしまった。
有紗は追加料金を支払って個室に入る。

(地下二階ってMARIAのこと? じゃあタカヒロさんが言ってた急用って……? ううん。そんなはずない。タカヒロさんは関係ないもん。呼び出されたのはクラブのことだよね?)

 気を落ち着かせるために巾着に入れた金平糖の包みを開け、黄色とオレンジの金平糖を二粒口に放り込む。
甘い味が口の中に広がって、不安に包まれた心もほぐれていく。

「やばっ……もうちょっとでなくなりそう。買いに行かなきゃ」

金平糖は御守り。これさえあればきっと大丈夫。
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