早河シリーズ第二幕【金平糖】
 早河はしばらくなぎさとの攻防戦を続けたが、観念して肩を落とした。なんだかんだでこの助手にはいつも負ける。

『……あー! もう。わかったよ。母親捜し引き受けてやる。母親見つかったら家に帰れよ』
「見つかったらねー」

素知らぬ顔で有紗はコートのポケットから金平糖の包みを出して口に放り投げた。

『今日からしばらくはなぎさの家に泊まらせることにしたからそれでいいな?』
「私はお風呂に入れて足を伸ばして寝れるとこならどこでもいいよー。荷物取りに行ってきまーす」

 有紗の姿がビルに消える。早河は舌打ちして恨めしそうになぎさをねめつけた。

『あの頑固さと世間知らずさは誰かさんを思い出すな?』
「さぁー。誰でしょうね?」
『とぼけやがって。急にうちで預かると言い出したのも家出した有紗と自分を重ねていたんだろ?』
「バレてました?」

 苦笑いするなぎさの気持ちは早河もわかっている。
なぎさが家出して早河探偵事務所に押し掛けて来たのは今年の4月。言ってることもやってることも、あの頃のなぎさと有紗はよく似ていた。
なぎさは自分と似ている有紗をほうっておけなかったのだろう。

『ま、どこかに放浪されたりこのままここに居るよりはマシか。このビルは色々とキナ臭い場所だからな』
「連続殺人事件と売春組織に関わりがあるんでしょうか」
『今のところはわからない。ただ……有紗はここに出入りさせない方がいい。それだけは確かだ』

 早河は五階建てビルを見上げた。両隣にも似た建物が並ぶ渋谷の裏通りに冷たい風が吹き荒れる。
せっかくの広く青い空のキャンバスなのに、ここにそびえ立つ灰色の建物の群れが空を真っ二つに切り裂いているように感じた。


第一章 END
→第二章 金平糖の少女 に続く
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