早河シリーズ第二幕【金平糖】
『佐伯先生が有紗さんのお父様に私の事務所を紹介されたと聞きました』
『そうです。高山さんが家出したとお父様から連絡をもらって……僕も担任として何とかしなくてはと思いまして繁華街に捜しに出たりもしたんです。警察に頼むことも考えましたが今はちょっと……早河さんもご存知ですよね? うちの生徒が殺された事件』
『ええ。表に報道陣が数人うろついていましたね』
『取材を断っても帰らないので困ったものです。あの事件で警察の方にはかなりのご迷惑をかけていますし、警察が動いて生徒の素行がマスコミに嗅ぎ付けられでもすればまたうちはやり玉に挙げられます。それでどこか、信頼できる探偵事務所をネットで探していて早河さんの事務所のホームページが目に留まったんですよ』

 眼鏡の奥の佐伯の瞳はにこやかに微笑んでいる。この穏和な男は同僚教師や生徒、保護者の信頼の厚いタイプだ。


佐伯の目に留まった事務所のホームページはこの春になぎさが作成したもの。あのホームページを作ってから依頼が増えたことは間違いない。世間知らずな助手を仕方なく雇った意味も少しはあった。

 話を終えて理事長室を辞した早河となぎさは来客用玄関から外に出た。正門前にはマスコミがいる。理事長の配慮で早河の車は裏門側に駐めてあった。
裏門までの道すがらに礼拝堂が見える。早河が通っていた高校にはこんなものはなかった。

『……どうした?』

 礼拝堂の前で足を止めたなぎさはじっと太陽の光を浴びた七色のステンドグラスを見つめている。……泣きながら。

『懐かしさでセンチメンタルにでもなった?』
「そうかもしれません。色んなこと思い出しちゃって」

慌てて涙を拭うなぎさは自分でも泣いていたことに驚いていた。

 早河がなぎさの泣き顔を見たのは今日を含めて四度目だ。
一度目は昨年に警視庁で。あの時は泣いてはいないが泣きそうな顔だったのを覚えている。
二度目は兄の香道秋彦の葬儀の日、次はなぎさが自殺未遂をして早河が見舞いに訪れた時。四度目が今日。

本当は彼女はこれまでにも泣いていたのかもしれない。人には見せないだけで何度も、何度も。
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