早河シリーズ第二幕【金平糖】
 何枚も何枚も瑠璃の裸の写真が岩田の携帯に表示された。

『アソコの色も綺麗だし胸も大きくて形もいいだろ? 昨日は瑠璃の“これ”で処理させてもらったんだけどな。どうしても本物には勝てない。もういない子を追いかけても仕方ないしな』

 岩田は携帯をしまう。熊井の脳裏にはたった今見た瑠璃の裸体の残像がちらついて、この少女が殺されている事実を考えるとなんとも言えない気持ちになった。

『瑠璃は客に殺されたってもっぱらの噂』
『客って……』

熊井は横目で岩田を見た。岩田は殺された少女の裸の写真を見せびらかすような男だ。
岩田のデリカシーに欠ける性格は大学時代から変わらない。
熊井の疑惑の視線を浴びて岩田はまた下品に笑った。

『言っとくけど俺じゃねぇよ。首絞めプレイは好きだが殺しはしない』
『当たり前ですよ。一瞬ドキッとしましたけど……』

熊井は無意識に岩田との間を距離を空けて歩いている。岩田はそんなことは気にもせずに口笛を吹いていた。

 11月は秋になるのか、冬になるのか、子供の頃からの熊井の疑問だった。身を竦めたくなる風は冬の風だ。

『でもお気に入りの子が死んだのにまだ通うんですか?』
『さっきも言っただろ。写真や映像じゃ物足りなくなる。どうしたって生身の女の方が気持ちいい。瑠璃の件は残念だが、自分の妹や友達の子供が殺されたわけでもない。こっちもあっちもビジネスの付き合いだ。それはそれ、これはこれ。瑠璃の代わりはいくらでもいる』

岩田がプリクラ画像や写真をまだ消さないで持っている辺りは瑠璃を偲んでいるのかもしれないが、それと性的欲求は別物だ。
そういうものかもしれない。熊井も女はもうこりごりと言いながら結局は女を欲している。

『ほら、着いた。ここだ』

 岩田が足を止めた。五階建てのビルのテナントは一階がコンビニ、二階はネットカフェ、三階はダイニングバー、四階がゲームセンター、五階がカラオケ。
地下一階は〈フェニックス〉の名前がついたクラブだ。

『先輩、ここ……“そういう店”はありませんよ。もしかしてクラブに?』
『店があるのはクラブの下。地下二階』

 コンビニ横のビルの入り口を通る岩田を熊井が追いかける。

『地下二階? 看板には地下一階までしか……』
『だから店が会員制なんだ。地下二階は男と女の秘密の楽園』

 岩田のいちいち気取った喋り方も昔と変わらない。顔はイケメンの部類ではないが、甘い言葉で岩田は何人もの女を落として遊んできた。

今は恋愛をするよりも十代の女の子と遊ぶ方が気楽でいいとさっきも飲みながら饒舌に語っていた。結婚する気も当分なさそうだ。

そんな予定はまったくないが、もしも自分が結婚する時は結婚式に岩田は呼びたくないと熊井は密かに思っていた。
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