早河シリーズ第二幕【金平糖】
 早河の携帯に有紗の担任の佐伯洋介から連絡が入ったのは午前10時過ぎだった。

『有紗が学校に来ていない?』
{はい。一限が終わったところなんですが高山さんはまだ登校していません}

電話相手の佐伯の背後からは学校のチャイムの音が聞こえる。

『香道からは制服を着て家を出たと聞いていたので、てっきり学校へ向かったと思っていました。申し訳ありません』
{いえいえ。早河さんが謝られることはないですよ。ただこのまま欠席が続くと進級にも響きますし、来年は彼女も受験生なので……}
『わかりました。有紗は私の方で捜します。見つけ次第そちらにご連絡します』
{お手数おかけします}

 佐伯は何度も早河に謝罪と礼を述べて通話を切った。電話の後、早河は呆れと怒りの溜息をつく。

『有紗の奴、サボりやがったな』
「すみません……。制服を着て出たので学校に行ったとばかり……」
『なぎさが責任感じる必要はない。有紗だって分別のつかない子供じゃないんだ。自分で判断してサボってんだよ』

 ハンガーにかけたコートを羽織り、早河は携帯電話を有紗の番号に繋げる。コール音はなるが一向に出る気配はない。

『出ないな。行き先の見当はだいたいついてる。なぎさは留守番頼む』
「はい。お気をつけて」

 早河が出掛け、ひとりで残された探偵事務所。愛用のノートパソコンを開いても有紗のことが気がかりで、なぎさはキーを打つ手が進まなかった。
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