早河シリーズ第二幕【金平糖】
 いつものネットカフェの個室。すっかり居心地の良くなってしまったここのソファーの上で有紗は漫画を読んでいた。
本来は学校に行かなければいけない身分での堂々としたサボりだ。最初は入店を拒否されたが、馴染みの店員に頼み込んでようやく個室に入れてもらえた。

 今は午前10時半。先ほどから学校と早河から数分置きに何度も着信がある。有紗は携帯を無音設定のサイレントモードにして着信を無視していた。

(早河さん怒ってるかなぁ。ヤバいなぁ)

 ジュースのストローを噛んで頬杖をつくと、早河やなぎさのことを考えた。昨日から関わり始めた探偵と助手の二人のことを少しだけ信用してもいい大人なのかもしれないと有紗は思っていた。

早河が渋々連れて行ってくれた焼肉も、久しぶりの誰かと一緒に食べる楽しい夕食だった。大人は嫌いだけど早河となぎさは嫌いじゃない。

(そっか。早河さんは探偵だから私がここにいるのわかっちゃうかも。あの人、なんかなんでも知ってそうだもん)

早河への信頼が生まれている反面、学校をサボったことで彼と顔を合わせるのが気まずい。どうせ帰ったら怒られるのだろう。今はまだ怒られたくない。

 浅はかな幼稚さが有紗の体を動かしていた。ネットカフェを出てエレベーターに乗る。彼女は地下一階のボタンを押した。

(タカヒロさんいるかなぁ? まだこの時間なら寝てるよね)

クラブの営業が終わるとタカヒロは大抵は明け方から昼までクラブの店内で寝ていると前に彼に聞いていた。早河はネットカフェには捜しに来るかもしれないが、クラブまでは来ないだろう。

(タカヒロさんに頼んでしばらくクラブに居させてもらおう)

自分の頼み事ならタカヒロは断らない。そんな自負が彼女にはあった。
タカヒロに好かれている自信がある。だって彼とは……キスまでした仲なんだから。
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