早河シリーズ第二幕【金平糖】
『おいおい早河さーん。ラブホ街のど真ん中で女子高生と抱き合ってるって洒落になりませんよー』

 矢野一輝が笑いながら歩いて来る。彼にも有紗を捜して走り回ってもらっていた。

『バーカ。あやしてるだけだ』
「この人誰?」

有紗は恥ずかしげに涙を拭い、矢野と早河を交互に見た。早河とお揃いのような黒いコートの中の派手な柄シャツが印象的だ。

『俺の助手1号の矢野』
『ちょっとなんですか、その仮面ライダーみたいな紹介の仕方。有紗ちゃん初めまして。早河探偵の助手1号の矢野一輝でーす』

ノリのいい人だ。矢野の言い方に有紗は吹き出して笑う。たった今まで泣いていた彼女がみるみる笑顔になった。

「なぎささん以外にも助手がいたんだね」
『なぎさは助手2号』
『じゃあ早河さんは悪の組織の使いパシリってことで』
『なんで俺が悪役なんだよ。しかもなんでパシリなんだよ』

 早河と矢野の漫才のようなやりとりが面白い。安心した途端に有紗は空腹の気配を感じた。

「お腹空いた」
『もうすぐ12時か。俺も誰かさん捜し回って走ったから腹減った』
『じゃあ皆でどっか昼飯に行きますか。早河さんのおごりで』
「やった! 早河さんのおごりで!」

矢野がニヤリと早河を見て、有紗はピョンピョン跳び跳ねている。

『お前ら初対面なのにもう意気投合したのかよ……。待ってろ。今なぎさに電話するから』

 がっくり肩を落として早河は携帯電話をなぎさの番号に繋げた。すぐに電話口に彼女が出る。

『有紗見つけたから。もう心配いらない』
{良かったです。本当に良かったぁ……}
『今日は事務所に戻らないと思う。定時になったら帰っていいぞ。電話、有紗に代わるな。……ん、なぎさに謝っておけ』

なぎさの声は心底安堵したようで、早河は自分の携帯を有紗に寄越す。有紗は恐る恐る携帯を受け取った。

「……もしもし、なぎささん、あの、ごめんなさい……」
{いいのよ。でも、もうサボっちゃダメだよ?}
「はぁい。……あ、じゃあ早河さん達とご飯食べて来るね」

有紗がなぎさとの通話を終わらせた携帯電話を早河に返す。

「なぎささん、怒ってなかった」
『ここだけの話、なぎさも家出してきてたからな』
「えっ? そうなの?」

 三人はとりあえずラブホ街の外に出る。このままこの近辺に居れば早河と矢野が女子高生の買春疑惑を向けられてしまう。
先頭を歩いていた矢野が頷いた。

『そういえば、あの頃のなぎさちゃんと今の有紗ちゃんは似ていますね。お父さんと喧嘩して家出してきたところまでソックリ』
『アイツは有紗が昔の自分に似てるからほうっておけないんだよ。だから家出したり学校サボったり、有紗が無茶苦茶やらかしたとしてもそれで怒ることはない』

早河と矢野がなぎさの話を語る時、有紗は少しだけ淋しく感じた。きっと彼らの間には自分が知らない思い出や過去がまだまだあることを突き付けられたからだろう。
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