早河シリーズ第二幕【金平糖】
 渋谷警察署道玄坂上交番が見えた。安さんはここの交番勤務の警官だ。
交番の向かいのファミリーレストランに三人は入る。聖蘭学園の佐伯洋介に報告の連絡をして早河が席に戻ると、有紗がメニュー表と睨み合っていた。

『学校には連絡しておいた。佐伯先生が今日の最後の授業だけでも間に合うように来てくれって』
「はぁーい」

 本当に学校に行く気があるのか定かではないが返事だけは元気がいい。
有紗は遠慮の欠片もなくデミグラスソースのオムライス、サイドメニューのフライドポテト、コーンスープまで注文して早河と矢野を唖然とさせた。
女子高生の食欲は恐ろしい。

「学校サボったこと、早河さんにはもっと怒られるかと思った」
『俺は教育者でもないし生活安全課の刑事でもない。高校生にあれこれ説教する気もない。ただ有紗のことを心配してくれる人間も大勢いるってことは覚えておけよ』
「うん」

 オムライスを半分ほど食べ終えた有紗はうつむいた。しょんぼりとする有紗を見て早河は笑う。

『そうやってしおらしくしていれば可愛げもあるのにな』
「今、可愛いって言った?」
『可愛いじゃなくて、可愛げ』
「どう違うのぉ?」

口を尖らせて拗ねる有紗は初めてあのビルの前で会った時の冷めた目をした少女とは別人に見えた。

『どうって……全然違うだろ。可愛いって言うのは外見や仕草のことを言うのであって可愛げって言うのは性格が素直な可愛さがあるって意味じゃ……なぁ矢野?』

 早河は飲みかけのコーヒーカップを置き、隣にいる矢野に目配せする。矢野はタラコスパゲティをせっせと掻き込んでいた。

『俺に振らないでくださいよー。俺だって国語の教師じゃないんだから』
『お前は仮にも国立大卒だろ』
「矢野さん国立大出てるの? 意外と頭いいんだ」

矢野が国立大出身者であることが有紗は相当驚いたらしく、矢野は有紗の反応に苦笑いしていた。

「学校行く前に髪……黒に戻さないと。でも今から美容院の予約取れるかなぁ」

 聖蘭学園では染髪は禁止されている。茶髪のまま学校に行けば生活指導の教師に呼び出されてしまう。

『知り合いに美容師いるから聞いてみようか? 頼めばすぐにやってくれると思う。原宿に店があってここから近いよ』
『おお、やっと矢野の女遊びが役に立つ時が来たか』
『こらこら早河さーん。せっかく有紗ちゃんの俺のイメージが意外と頭いい人になってるのに何てこと言うんですかっ』
『意外と、な』
「早河さんと矢野さん仲良いね! あーあ。でも茶髪けっこう気に入ってたのになぁ」

この髪色ともお別れかと思うと名残惜しい。
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