早河シリーズ第二幕【金平糖】
 まだ仕事中のなぎさの邪魔にならないように自分となぎさの分のコーヒーを淹れて矢野はソファーに座った。なぎさも仕事を中断して矢野が淹れたコーヒーで一息つくことにした。

『有紗ちゃん、もしかしたら早河さんに惚れちゃったかも』
「ええっ?」

 矢野が手土産に持ってきたエッグタルトを頬張るなぎさは口元を押さえて驚愕している。矢野もエッグタルトを口に放り込んだ。

『聖蘭学園って茶髪禁止だよね?』
「はい。あっ……! 有紗ちゃん茶髪でしたよね。そのまま行っちゃったんですか?」
『いや、このままじゃ先生に怒られるからって、俺の知り合いがやってる美容院に寄って黒に染め直したんだ。でも仕方なく染め直した感じでもなくてさ。むしろ黒髪に戻って嬉しそうにしてた。それにはたぶん早河さんが関係してる』
「どうして所長が?」
『早河さんが、“俺は自然体な女が好きだ”って有紗ちゃんに言っちゃったんだよね』

早河探偵事務所の窓は西向きだ。夕焼けに色づいてきた太陽の光が室内に差し込んだ。

『それに有紗ちゃん、なぎさちゃんのこと意識してたよ』
「私のこと?」
『二人は本当に探偵と助手の関係なだけなのかぁっ? って。他にも早河さんの生年月日やら血液型やら、好きな女のタイプなどなど色々質問攻め。女子高生は恐ろしい』

 矢野が購入してきた八個入りのエッグタルトはあと残り四つになっていた。早河と有紗に2つずつ残して、矢野は二杯目のコーヒーの準備に取りかかる。
カップを二つ持ってなぎさも矢野に続いて給湯室に入った。

「女の子たくさん泣かせてる矢野さんでも女子高生には負けますね」
『なぎさちゃんまでそんなことを……。俺、なぎさちゃんと早河さんには何もないって言っちゃったけどまさか俺の知らない間に早河さんとデキちゃって熱愛発覚ーっ! なことはないよね?』
「まさか。それはないですよ」

なぎさは手を横に振って、笑いながら否定した。
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