早河シリーズ第二幕【金平糖】
午前11時を回った頃、事務所の扉が突然開いて矢野一輝が転がり込んで来た。
「矢野さんっ? どうしたんですかその怪我……」
『ちょっとね。こわーい連中に囲まれて。でも危険を犯しただけのネタは仕入れて来ましたよ』
ソファーに倒れ込んだ矢野の口元には血が滲んでいる。早河に向けてピースサインを作るだけまだ気力はありそうだが、口元の傷が痛々しかった。
『何を掴んだ?』
『例のMARIAのアジトのビル。あのビルのオーナーの東堂孝広が関東を仕切ってる和田組の西山元組長の息子だって話は有名ですよね』
『ああ。東堂は西山が愛人に産ませた子供らしいが』
『そうそう。で、あの渋谷のビルは元々は西山の持ち物だったんです。それを2年前に息子の東堂が引き継いで東堂がオーナーになった。……あ、なぎさちゃんありがとう』
なぎさから消毒液を浸したガーゼを受け取った矢野は顔をしかめながら口元の消毒をする。
『じゃあMARIAと和田組の西山が繋がってるってことか?』
『いや、西山とMARIAは直接的な関わりはないみたいです。西山があのビルを買い取った時にはすでにMARIAも地下二階も存在していた。もちろん前のオーナーの西山にも、今のオーナーの東堂にもMARIAの収益の何%かは流れています。今のMARIAを実質的に動かしているのも東堂ですしね』
『渋谷北署の酒井さんも言っていたが、東堂側はあくまでもMARIAはテナントだと言い張ってるらしいな。だが東堂がMARIAの運営に関わっていたのは間違いない』
なぎさがホワイトボードに一連の話の流れを記入しているのを早河が眺めて呟いた。矢野がホワイトボードを見て頷く。
『MARIAのメンバーも売春行為は認めたものの、東堂に売春を強要されたこともない、東堂とは恋人関係だとメンバー全員主張してるとか。あの男、女子高生を上手くたらしこんだものですよ』
『まったくだな。警察はMARIAと東堂の繋がりは掴んでいるのに肝心のMARIAのメンバーの証言が獲られないから東堂を逮捕できずにいるってわけだ』
『ま、東堂は女子高生に売春させる以上のブラック過ぎるくらいにブラックなことを裏で色々やらかしてるので、そのうちパクられると思うんですよねー。うわー。腫れてるな、これはマズイぞ』
「湿布貼りましょうか?」
ホワイトボードの記入を終えたなぎさが救急箱から湿布を取り出す。矢野がシャツをめくりあげて赤く腫れた脇腹を指差した。
『ありがとう! なぎさちゃん。優しくね、優しく、愛情たぁっぷりに……。あ、それで本題なのは東堂がどうとかじゃなくて、東堂の親父の西山の方で』
『もったいぶらずに早く言え』
なぎさに湿布を貼ってもらっている矢野を早河は睨み付けている。早河は機嫌が悪そうだ。
「矢野さんっ? どうしたんですかその怪我……」
『ちょっとね。こわーい連中に囲まれて。でも危険を犯しただけのネタは仕入れて来ましたよ』
ソファーに倒れ込んだ矢野の口元には血が滲んでいる。早河に向けてピースサインを作るだけまだ気力はありそうだが、口元の傷が痛々しかった。
『何を掴んだ?』
『例のMARIAのアジトのビル。あのビルのオーナーの東堂孝広が関東を仕切ってる和田組の西山元組長の息子だって話は有名ですよね』
『ああ。東堂は西山が愛人に産ませた子供らしいが』
『そうそう。で、あの渋谷のビルは元々は西山の持ち物だったんです。それを2年前に息子の東堂が引き継いで東堂がオーナーになった。……あ、なぎさちゃんありがとう』
なぎさから消毒液を浸したガーゼを受け取った矢野は顔をしかめながら口元の消毒をする。
『じゃあMARIAと和田組の西山が繋がってるってことか?』
『いや、西山とMARIAは直接的な関わりはないみたいです。西山があのビルを買い取った時にはすでにMARIAも地下二階も存在していた。もちろん前のオーナーの西山にも、今のオーナーの東堂にもMARIAの収益の何%かは流れています。今のMARIAを実質的に動かしているのも東堂ですしね』
『渋谷北署の酒井さんも言っていたが、東堂側はあくまでもMARIAはテナントだと言い張ってるらしいな。だが東堂がMARIAの運営に関わっていたのは間違いない』
なぎさがホワイトボードに一連の話の流れを記入しているのを早河が眺めて呟いた。矢野がホワイトボードを見て頷く。
『MARIAのメンバーも売春行為は認めたものの、東堂に売春を強要されたこともない、東堂とは恋人関係だとメンバー全員主張してるとか。あの男、女子高生を上手くたらしこんだものですよ』
『まったくだな。警察はMARIAと東堂の繋がりは掴んでいるのに肝心のMARIAのメンバーの証言が獲られないから東堂を逮捕できずにいるってわけだ』
『ま、東堂は女子高生に売春させる以上のブラック過ぎるくらいにブラックなことを裏で色々やらかしてるので、そのうちパクられると思うんですよねー。うわー。腫れてるな、これはマズイぞ』
「湿布貼りましょうか?」
ホワイトボードの記入を終えたなぎさが救急箱から湿布を取り出す。矢野がシャツをめくりあげて赤く腫れた脇腹を指差した。
『ありがとう! なぎさちゃん。優しくね、優しく、愛情たぁっぷりに……。あ、それで本題なのは東堂がどうとかじゃなくて、東堂の親父の西山の方で』
『もったいぶらずに早く言え』
なぎさに湿布を貼ってもらっている矢野を早河は睨み付けている。早河は機嫌が悪そうだ。