早河シリーズ第二幕【金平糖】
 聖蘭学園の校内は昼休みを楽しむ生徒で賑やかだ。高山有紗はなぎさが作ってくれた弁当を完食し、携帯電話を片手に微笑んだ。

「有紗、何か良いことあったの? 携帯見てニヤニヤしちゃって」

友人の奈保が有紗の顔を覗き込む。有紗はふふっと笑って携帯電話を制服のポケットにしまった。

「あのね、好きな人できた」
「だれだれ? どこの学校の人?」
「高校生じゃないよ。年上の人。……あ、ヤッバイ。佐伯先生に課題のプリント出しに行かなきゃ! 職員室行ってくる」

 昨夜は休んでいた分の課題プリントを片付けるので必死だった。遅くまで課題をしていたおかげで寝坊寸前だった。

なぎさも昨日は遅くまでライターの仕事をしていたはずなのに、彼女は早くに起きて有紗のために弁当を作ってくれた。

(なぎささんのお弁当美味しかったなぁ。綺麗で仕事も出来て料理も上手って、完璧じゃん。私も少しはご飯作れるようにしよう。そうしたら早河さんにお弁当作ってあげたりできるし……)

 課題のプリントを持って二階の職員室までの廊下を歩く。渡り廊下を歩いていると前から三年生の木内愛が歩いてきた。

愛と有紗は同じ美術部の先輩後輩で、有紗は愛を慕っている。
有紗は彼女に声をかけようか迷った。愛は携帯電話の画面を見ながら歩いている。

その表情は有紗が今まで見たことのない険しい顔をしていた。愛は有紗とすれ違っても有紗の存在に気付かず、ずっと携帯画面を睨み付けていた。

(愛先輩、いつもはニコニコしてるのに……何かあったのかな?)

 愛の様子は気になるがとにかく今は課題の提出だ。職員室に入り、担任の佐伯洋介の席まで課題を持っていく。

「はい、先生」
『お。間に合ったね。これで火曜日の分までクリア。じゃあ次は水曜と木曜の分』

佐伯は新たなプリントの束を有紗に渡した。渡されたプリントの量を見た有紗は肩を落とす。

「えー。まだこんなにあるの?」
『高山さんは休んでいた分の課題を終わらせればいいだけだから、まだマシなんだよ。期末で追試だった子は毎日補習なんだから』
「期末テストはギリギリ赤点なかったもん」
『本当にギリッギリだったけどね。それは月曜日提出ね』
「はーい」

 課題のプリントを抱えて職員室を出る頃には木内愛の異変のことは有紗の頭から消えていた。居眠りしそうになるのを堪えて午後の授業をこなし、ようやく放課後だ。

 有紗は美術室に向かった。今日は美術部の活動日ではないが、休んでいた分だけ作業が遅れている。冬休みに入る前に展覧会に出す絵を仕上げなければならない。
なぎさにも今日は部活に出てから帰ると伝えてある。
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