早河シリーズ第二幕【金平糖】
12月13日(Sat)午前7時
寒い冬の朝。公園の片隅でさえずる小鳥達も寒さに耐えるように身を寄せあっている。
京王井の頭線、神泉駅から程近い場所にある鍋島松濤《なべしましょうとう》公園。桜の時期には花見客で賑わうこの公園は、今朝は別の意味で人だかりができていた。
公園の地面の上に木内愛が仰向けに倒れている。彼女が着ている紺色のコートの左胸は黒ずんだ色に変色し、胸からナイフの柄が突き出ていた。
警視庁捜査一課の上野恭一郎と小山真紀は死体となった愛を見下ろした。二人に友人の倉木理香と教師の朝倉修二の関係を教え、友人の人生を変えてしまった朝倉を嫌悪し、理香を殺した犯人を許さないと断罪していた彼女は今はもう話せない。
何とも言えない怒りと悲しみの感情が込み上げ、真紀は死体から目をそらした。
上野が愛の左手を見る。これまでの被害者三人と同じ、愛の左手には金平糖が四つ握らされていた。
木内愛の死体発見のニュースはその日の昼のニュースで報じられた。
土曜で学校が休みの日だった有紗は、なぎさの家で暇をもて余していた。なぎさは午前中からライターの仕事で出掛けている。
他人の家にひとりでいるのも退屈だった。なぎさからは合鍵を渡されているから、外出は自由にできる。
どこかに買い物にでも行こうと思い立ち、家を出ようとした矢先に携帯電話が鳴った。同じ学校の美術部の友達からのメールだ。
「嘘でしよ……愛先輩が?」
なぎさの家を出た有紗は早河探偵事務所に向かった。覚えたての道を通って新宿通りの交差点を渡り、四谷の三栄通りに入る。
三栄公園を通り過ぎて見えてきた早河探偵事務所のガレージには早河の車がなかった。
走ってきたので呼吸が荒い。ハァ、と深呼吸を繰り返して、彼女は事務所の螺旋階段の踏み板にしゃがみこんだ。
寒い冬の朝。公園の片隅でさえずる小鳥達も寒さに耐えるように身を寄せあっている。
京王井の頭線、神泉駅から程近い場所にある鍋島松濤《なべしましょうとう》公園。桜の時期には花見客で賑わうこの公園は、今朝は別の意味で人だかりができていた。
公園の地面の上に木内愛が仰向けに倒れている。彼女が着ている紺色のコートの左胸は黒ずんだ色に変色し、胸からナイフの柄が突き出ていた。
警視庁捜査一課の上野恭一郎と小山真紀は死体となった愛を見下ろした。二人に友人の倉木理香と教師の朝倉修二の関係を教え、友人の人生を変えてしまった朝倉を嫌悪し、理香を殺した犯人を許さないと断罪していた彼女は今はもう話せない。
何とも言えない怒りと悲しみの感情が込み上げ、真紀は死体から目をそらした。
上野が愛の左手を見る。これまでの被害者三人と同じ、愛の左手には金平糖が四つ握らされていた。
木内愛の死体発見のニュースはその日の昼のニュースで報じられた。
土曜で学校が休みの日だった有紗は、なぎさの家で暇をもて余していた。なぎさは午前中からライターの仕事で出掛けている。
他人の家にひとりでいるのも退屈だった。なぎさからは合鍵を渡されているから、外出は自由にできる。
どこかに買い物にでも行こうと思い立ち、家を出ようとした矢先に携帯電話が鳴った。同じ学校の美術部の友達からのメールだ。
「嘘でしよ……愛先輩が?」
なぎさの家を出た有紗は早河探偵事務所に向かった。覚えたての道を通って新宿通りの交差点を渡り、四谷の三栄通りに入る。
三栄公園を通り過ぎて見えてきた早河探偵事務所のガレージには早河の車がなかった。
走ってきたので呼吸が荒い。ハァ、と深呼吸を繰り返して、彼女は事務所の螺旋階段の踏み板にしゃがみこんだ。