早河シリーズ第二幕【金平糖】
『それで結局、夕飯は有紗ちゃんとイタリアンを食べたってことですか。完全に財布扱いされてますねぇ』
午後10時。早河探偵事務所を訪れた矢野一輝は、今日一日有紗の世話を焼いていた早河の愚痴を笑いながら聞いていた。
『仕方ないだろ。ひとりで夕飯食べるの慣れてるって言ってたくせに、今日はなぎさがいないからひとりで飯は嫌だからどこか連れて行けだの、ファミレスは嫌だって駄々こねるし』
『早河さんが女子高生に振り回されてるとはねー。珍しいもの見れて面白いっすよ』
『面白がるな。厄介な預りモノだ。大人ぶるなと言えば今度は急に子供っぽくなる。ガキの面倒見るのは疲れる』
ふてくされた面持ちで早河はガラス製のコーヒーポットを持ち上げ、カップにコーヒーを注ぐ。
『有紗ちゃんに影響された形になりますけど、なぎさちゃんのこと本当はどう思ってるんですか?』
コーヒーをカップに注ぐ早河の動きが止まる。彼は眉をひそめて矢野を見た。
『お前もその話かよ。勘弁してくれ。どうしてそんなこと聞く?』
『いやぁ、だって気になりますって。二人の関係には1年前のことがありますし。ただの探偵と助手って割り切った関係ではないでしょ?』
『……そうだな。なぎさは香道さんの妹だからな。危険な仕事はさせられない。生活や精神面にも気を遣ってるつもりだ。ただの仕事上だけの助手というわけにはいかない部分もある』
カップに淹れたコーヒーを持って早河はデスクに戻る。その最中に受ける矢野の視線が何故か痛かった。
『助手だけどただの助手じゃなく、大事にしてる人って解釈でOKですか?』
『まぁ……な』
早河の言葉は歯切れが悪い。なぎさのことになると、彼はいつも歯切れ悪く誤魔化す。
『でもそれは恋愛感情ではないと?』
『ああ。あくまでも香道さんの妹として気遣ってるだけ』
『それなら、なぎさちゃんに彼氏が出来ても別に問題ないですよね?』
『仕事に支障ないならプライベートは干渉しない』
『仕事に支障ね。じゃあもし俺がなぎさちゃん口説いてモノにしたらどうします?』
矢野はソファーにもたれ、デスクにいる早河を挑発的に見据える。早河は目を見開いて戸惑いの表情を浮かべた。数秒間の沈黙が訪れる。
『お前……なぎさに惚れてたのか?』
早河の反応が面白くて矢野は吹き出した。
『冗談ですよ。ホントのとこはどうなのかなーっと思ってカマかけてみただけ。なぎさちゃんのことは好きだけど恋愛感情ではないし、俺には本命がいますから』
『驚かせるなよ。年中女遊びしてる矢野から本命なんて言葉が出るとはな。お前の本命の女ってどんな女?』
早河はホッとした溜息をついて矢野を睨んでいる。心臓に悪い冗談は勘弁してほしいものだ。
矢野はライターの蓋を開けたり閉めたりしてライターを弄んでいる。自分の本命の女の話題となっても矢野は焦りもしない。
『早河さんがよぉーく知ってる女』
『俺が知ってる女でお前と関係がある奴って……新宿西署の伊藤裕美? それかリトルローズの凛花《リンカ》か?』
『残念。ハズレー。裕美も凛花もお互い遊びの付き合いですからね。だけど俺の本命の女は遊びの付き合いは絶対にしないタイプ。もう、超、超、生真面目』
『誰だよ?』
『小山真紀』
矢野のライターの蓋がひときわ甲高い金属音を鳴らす。早河は飲んでいたコーヒーをあやうく吹き出しそうになった。
午後10時。早河探偵事務所を訪れた矢野一輝は、今日一日有紗の世話を焼いていた早河の愚痴を笑いながら聞いていた。
『仕方ないだろ。ひとりで夕飯食べるの慣れてるって言ってたくせに、今日はなぎさがいないからひとりで飯は嫌だからどこか連れて行けだの、ファミレスは嫌だって駄々こねるし』
『早河さんが女子高生に振り回されてるとはねー。珍しいもの見れて面白いっすよ』
『面白がるな。厄介な預りモノだ。大人ぶるなと言えば今度は急に子供っぽくなる。ガキの面倒見るのは疲れる』
ふてくされた面持ちで早河はガラス製のコーヒーポットを持ち上げ、カップにコーヒーを注ぐ。
『有紗ちゃんに影響された形になりますけど、なぎさちゃんのこと本当はどう思ってるんですか?』
コーヒーをカップに注ぐ早河の動きが止まる。彼は眉をひそめて矢野を見た。
『お前もその話かよ。勘弁してくれ。どうしてそんなこと聞く?』
『いやぁ、だって気になりますって。二人の関係には1年前のことがありますし。ただの探偵と助手って割り切った関係ではないでしょ?』
『……そうだな。なぎさは香道さんの妹だからな。危険な仕事はさせられない。生活や精神面にも気を遣ってるつもりだ。ただの仕事上だけの助手というわけにはいかない部分もある』
カップに淹れたコーヒーを持って早河はデスクに戻る。その最中に受ける矢野の視線が何故か痛かった。
『助手だけどただの助手じゃなく、大事にしてる人って解釈でOKですか?』
『まぁ……な』
早河の言葉は歯切れが悪い。なぎさのことになると、彼はいつも歯切れ悪く誤魔化す。
『でもそれは恋愛感情ではないと?』
『ああ。あくまでも香道さんの妹として気遣ってるだけ』
『それなら、なぎさちゃんに彼氏が出来ても別に問題ないですよね?』
『仕事に支障ないならプライベートは干渉しない』
『仕事に支障ね。じゃあもし俺がなぎさちゃん口説いてモノにしたらどうします?』
矢野はソファーにもたれ、デスクにいる早河を挑発的に見据える。早河は目を見開いて戸惑いの表情を浮かべた。数秒間の沈黙が訪れる。
『お前……なぎさに惚れてたのか?』
早河の反応が面白くて矢野は吹き出した。
『冗談ですよ。ホントのとこはどうなのかなーっと思ってカマかけてみただけ。なぎさちゃんのことは好きだけど恋愛感情ではないし、俺には本命がいますから』
『驚かせるなよ。年中女遊びしてる矢野から本命なんて言葉が出るとはな。お前の本命の女ってどんな女?』
早河はホッとした溜息をついて矢野を睨んでいる。心臓に悪い冗談は勘弁してほしいものだ。
矢野はライターの蓋を開けたり閉めたりしてライターを弄んでいる。自分の本命の女の話題となっても矢野は焦りもしない。
『早河さんがよぉーく知ってる女』
『俺が知ってる女でお前と関係がある奴って……新宿西署の伊藤裕美? それかリトルローズの凛花《リンカ》か?』
『残念。ハズレー。裕美も凛花もお互い遊びの付き合いですからね。だけど俺の本命の女は遊びの付き合いは絶対にしないタイプ。もう、超、超、生真面目』
『誰だよ?』
『小山真紀』
矢野のライターの蓋がひときわ甲高い金属音を鳴らす。早河は飲んでいたコーヒーをあやうく吹き出しそうになった。