早河シリーズ第二幕【金平糖】
 佐伯洋介には佐伯琢磨と言う兄がいた。その兄が美晴に金平糖を御守りとしてプレゼントしていた。

『美晴さんと佐伯琢磨さんは恋人同士だったんでしょうか?』
「はい。たっくんは美晴よりも四歳年上でしたので、美晴が中学生、たっくんが高校生の時にお付き合いを始めていました。初恋の人と両想いになれて美晴はそれはもう喜んで、大騒ぎしていましたねぇ」

早河は優子の話を手帳にメモする。高山美晴は21歳で有紗を出産しているが……。

「でもたっくんが事故で亡くなってしまって、あの時は本当に大変でした」
『琢磨さんは亡くなられているんですか?』
「交通事故に巻き込まれてね。もうすぐ父親になるのに、産まれてくる娘の顔を見れないままで……」

 優子は昔を思い出したのか涙ぐんでいる。早河は優子の言ったある言葉に引っ掛かりを覚えた。

『娘とは美晴さんと琢磨さんの?』
「そう。それが有紗です」

 早河はさすがに驚き、握っていたボールペンを畳の上に落としてしまった。

『有紗さんは高山さんの実子ではなかったんですか?』
「有紗は美晴とたっくんの子です。有紗を身籠った時に美晴はまだハタチで……結婚前の妊娠だったので、うちの主人も怒り狂って大変でしたけれど、たっくんとの結婚を認めてくれたんです。だけどその矢先にたっくんが交通事故で死んでしまって、美晴はかなりショックを受けて精神科に通わせていたんです。その精神科のお医者様が政行さんなんですよ。有紗が無事に産まれたのも政行さんが美晴を支えてくれたおかげです」

最愛の人を亡くして悲しみに暮れる岡本美晴は高山政行と出会った。

『それで高山さんと美晴さんはご結婚を?』
「たっくんを失った美晴は政行さんに救われたからね。政行さんも美晴がほうっておけなかったんでしょう。有紗が1歳を迎える時に二人は入籍しました。政行さんは有紗を自分の子供だと言ってくれてね。有紗が小学生に上がる前に政行さんが東京の大学病院に呼ばれて、家族三人で東京で暮らし始めたんです」

 高山政行は有紗の実の父親ではなかった。有紗の本当の父親は佐伯琢磨。
佐伯洋介は有紗の叔父にあたる。

『有紗さんは高山さんが実の父親ではないと知っているんですか?』
「有紗はまだ知りません。政行さんも有紗が大人になったら話すと言っていましたけど美晴がいなくなって、有紗も政行さんに反抗しているみたいだからあの子も薄々気付いてるのかもしれませんね。美晴も政行さんと有紗を置いてどこに行ったのか……。やっぱり、たっくんが忘れられなくて辛かったのかな」

 早河は岡本邸を辞した。車に乗ると、彼は助手席に置いた金平糖の包みを手に取る。
金平糖は有紗の御守り──。

 フロントガラス越しの空は白く、今にも雪が降りそうな天気だった。東京ではまだ初雪はない。山梨も初雪はまだだろう。

高山政行は昨日から出張でロシアに旅立っている。彼が日本に戻るまでに真相が掴めるだろうか。

夫と娘を残して高山美晴はどこに消えた?
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