早河シリーズ第二幕【金平糖】
早河がなぎさの左腕に触れる。彼はなぎさの左腕を持ち上げて、セーターの袖をまくった。白くて細い手首に残る傷痕に早河の手が添えられる。
優しく撫でられる彼の手つきがくすぐったいのに悲しくて、切なくて。
どうしてそんなに悲しい瞳で
どうしてそんなに苦しそうな顔で
どうしてそんなに優しく触れるの?
『まだ痛む?』
「1年以上経っているんですよ。もう痛みませんよ」
なぎさは笑った。そうでもしないと立っていられない。ここで笑わないと彼女の中の何かが崩れてしまいそうだった。
早河の手はなぎさの傷を撫で続けている。
『……ごめんな』
「なんで所長が謝るんですか? 所長は何も悪くないのに。この傷は私が自分でつけて……不倫だって、私がバカだったからで……。だから……」
震える声で言葉を紡ぐなぎさの目からついに涙が溢れた。我慢していたのに限界だった。
早河の頬になぎさの右手が触れて、二人の視線が絡まり合う。
「お願いだから……そんな苦しそうな顔しないで……」
どうしてだとか、何故だとか、理由なんてなかった。
ただ、この人をひとりにはしておけない。
ただ、この人の側にいたい。支えたい。
それが恋愛感情なのかそうでないのか、そんなものは二の次だ。
なぎさの涙は止まらず彼女の頬を流れていく。早河はなぎさの左腕を引き寄せ、彼女を抱き締めた。
泣いているなぎさの髪を優しくすく。
どんな感情からだとか、どうしてこんなことをしているのかとか、理由なんてわからない。
ただ、彼女の泣き顔は見たくない。
ただ、彼女には笑顔でいて欲しい。守りたい。
自分の隣で笑っていて欲しい。それだけだ。
強く引き寄せ、強く抱き締め、互いの香りを吸い込んだ。
彼があまりにも優しく髪を撫でてくるから余計に涙が溢れてくる。
彼女があまりにも涙を流すから余計に離せなくなっている。
愛情? 友情? 罪悪感? 償い?
離れたくなくて離したくなくて、二人はいつまでも抱き合っていた。
優しくて痛くて苦しくて、優しさと痛みと苦しみの抱擁。この抱擁の意味はきっと誰にもわからない。きっと二人にもわからない。
意味のないことに意味がある。
きっと、そうなんだろう。
優しく撫でられる彼の手つきがくすぐったいのに悲しくて、切なくて。
どうしてそんなに悲しい瞳で
どうしてそんなに苦しそうな顔で
どうしてそんなに優しく触れるの?
『まだ痛む?』
「1年以上経っているんですよ。もう痛みませんよ」
なぎさは笑った。そうでもしないと立っていられない。ここで笑わないと彼女の中の何かが崩れてしまいそうだった。
早河の手はなぎさの傷を撫で続けている。
『……ごめんな』
「なんで所長が謝るんですか? 所長は何も悪くないのに。この傷は私が自分でつけて……不倫だって、私がバカだったからで……。だから……」
震える声で言葉を紡ぐなぎさの目からついに涙が溢れた。我慢していたのに限界だった。
早河の頬になぎさの右手が触れて、二人の視線が絡まり合う。
「お願いだから……そんな苦しそうな顔しないで……」
どうしてだとか、何故だとか、理由なんてなかった。
ただ、この人をひとりにはしておけない。
ただ、この人の側にいたい。支えたい。
それが恋愛感情なのかそうでないのか、そんなものは二の次だ。
なぎさの涙は止まらず彼女の頬を流れていく。早河はなぎさの左腕を引き寄せ、彼女を抱き締めた。
泣いているなぎさの髪を優しくすく。
どんな感情からだとか、どうしてこんなことをしているのかとか、理由なんてわからない。
ただ、彼女の泣き顔は見たくない。
ただ、彼女には笑顔でいて欲しい。守りたい。
自分の隣で笑っていて欲しい。それだけだ。
強く引き寄せ、強く抱き締め、互いの香りを吸い込んだ。
彼があまりにも優しく髪を撫でてくるから余計に涙が溢れてくる。
彼女があまりにも涙を流すから余計に離せなくなっている。
愛情? 友情? 罪悪感? 償い?
離れたくなくて離したくなくて、二人はいつまでも抱き合っていた。
優しくて痛くて苦しくて、優しさと痛みと苦しみの抱擁。この抱擁の意味はきっと誰にもわからない。きっと二人にもわからない。
意味のないことに意味がある。
きっと、そうなんだろう。