早河シリーズ第二幕【金平糖】
『東堂孝広は頭をパーンと一発、撃ち抜かれていたらしいです』

 矢野は親指と人差し指を広げて拳銃の形にした手を自分の頭に当てた。早河はデスクに頬杖をついて矢野の話に耳を傾ける。

『東堂殺しはMARIAの口封じか?』
『それもあるでしょうが、殺しが手慣れていてプロの犯行だったようで。東堂は色々とヤンチャなことしでかしてましたから、父親の西山が見切りをつけて息子を始末したんじゃないかって話も出てます』
『西山の裏にはカオスがいる。カオスの仕業の線もあるな』

 東堂孝広の死体が道玄坂二丁目のビルで発見されたと警視庁の上野警部から早河に連絡が入ったのは午後6時過ぎだった。第一発見者はMARIAの運営に関わっていたクラブの従業員。

『東堂とイチャイチャ真っ最中だった女も一緒に殺されてます。巻き添え食らった女はあのビルの三階にあるダイニングバーの店員で、まだ21歳だったようです。殺しに情け容赦ないって言うか、冷徹って言うか』

東堂孝広に同情はできない。彼は女子高生を売春させて金儲けをしていた鬼畜だ。
しかし東堂とあの場に一緒にいただけで無惨に殺された21歳の女性店員は気の毒でならない。

『不思議なのが、東堂が殺された時間帯のあのビルの監視カメラがすべて停止していたんです』
『監視カメラが?』
『外部からハッキングされたらしく、一時的にカメラが作動しないようにプログラムが仕組まれていたとか。怪しい匂いプンプン』
『ハッキングして監視カメラを停めている間にビルに侵入して東堂を殺す……確かに匂うな。東堂を殺したのが和田組の関係者なら、ヤクザが人殺しをするのにわざわざ監視カメラをハッキングするとも思えない』

 憂鬱そうに早河はなぎさのデスクに目をやった。矢野が早河の視線の先に気付く。

『なんだか暗いですね。なぎさちゃんと何かありました?』
『別に。ただ男と女はよくわかんねぇよなって。……有紗に佐伯の話をしてくる』

 思い立った早河はコートを羽織った。事務所に矢野を残して外の螺旋階段を降りる。
冷たい風に身をすくめて、夜の新宿通りに出た。

(あいつ……なんであんなに泣いていたんだ?)

 なぎさの泣き顔が忘れられない。無言の抱擁をしたあの後、山梨で得た情報をなぎさに報告した他は、ろくに会話もしないで彼女を自宅に帰した。

どうしてあんなことをしてしまったのか自分でも説明できない。
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