早河シリーズ第二幕【金平糖】
 ――眞子のメイド服から覗く黒のガーターベルトに熊井は釘付けになる。誘われるまま白い太ももの先に手を忍ばせた。そこは男の興奮を煽る領域。
間近で見る眞子は元カノのミサによく似ていた。人生で一番好きだったミサ。忘れられない過去の甘い思い出。

 思わず漏れたミサの名前に眞子は微笑んだ。性接待をする女に元カノの幻影を重ねる男は多い。眞子も身代わりにされるのは初めてではない。

「ミサでいいよ。今だけは私はあなたのミサちゃんだよ」
『ミサ……』

ミサ、ミサ……と熊井は繰り返してミサになりきった眞子とキスをする。乱暴に脱がしたピンクのメイド服から現れた黒い下着を見て、熊井の理性は限界を越えた。

 隣の部屋では倉木理香があの岩田と真っ最中だ。たまに漏れ聞こえてくる岩田の雄叫びに眞子は笑いを噛み殺した。
岩田は欲情すると雄叫びをあげる。岩田の雄叫びも女の首を絞めながらの射精もこの店では有名だ。

 身体を重ねれば男の性質は大抵わかる。熊井は女に捨てられるタイプの男だ。
そしてどうして自分が女に捨てられるのかわかっていないタイプでもある。

熊井も岩田も他の男も、男は馬鹿で単純な生き物だ。
昔の女はもうお前のことは忘れて他の男に抱かれている。ミサって女もきっと熊井のことを思い出しもしないだろう。

 後ろから熊井が入ってきた。熊井は眞子をミサの身代わりにして男の欲望を解放している。
眞子は冷めた心で感じている演技をした。

手練れの客だと演技では騙せないこともあるが、場数の少なそうな熊井は騙せる側の男だろう。
テクニックは四十点。自分本意の下手くそな性行為。今夜の締めとしてはハズレの客だ。

 眞子にとって熊井が文字通り“最後の客”になることを彼女はまだ知らなかった。
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