早河シリーズ第二幕【金平糖】
 午後9時。東京都新宿区四谷のマンション。
この部屋の主、香道なぎさは紅茶を淹れたカップをリビングのテーブルに置くとベッドに近付いた。

なぎさのベッドで有紗が寝ている。枕元にはあの猫柄の巾着袋。巾着の紐を握り締める有紗の泣き腫らした目元が痛々しい。

(有紗ちゃんが無事でよかった)

 佐伯に連れ去られた有紗の行方と、有紗を追って山梨に行った早河のことが心配で昼間は仕事が手につかなかった。
山梨県警での事情聴取を終えて早河と矢野が有紗を連れて帰って来たのは、日が暮れてからだった。

なぎさは有紗が眠ったことを早河にメールで知らせる。有紗をここに送り届けた後、早河は警視庁に向かうと言っていた。
今頃は上野警部と事件について話し合っているのだろう。

 佐伯洋介は神経を麻痺させる麻酔針を撃ち込まれていた。詳しいことはこれから調査するらしいが、麻酔銃は野生動物捕獲目的で日本でも獣医師など一部の者にだけ使用が許可されている。

だが日本には対人用の麻酔銃はない。海を挟んだ大陸側では警察部隊での装備があり、使用されたのはそちら方面の物の可能性があるとのことだ。

 佐伯の自宅からは白骨化した人の左手と共に、一連の聖蘭学園生徒の殺人事件で被害者が握っていた金平糖と同じ製造元と思われる金平糖が見つかった。
甲府市民文化ホールの床に散らばっていた金平糖も同じ物だ。

白骨した左手の薬指には指輪が嵌められていた。指輪に刻まれたイニシャルと日付から推測するとそれは高山美晴と高山政行のマリッジリング。
この左手が高山美晴のものであるとほぼ断定された。

 これらの証拠は5年前の高山美晴の殺害と聖蘭学園生徒の連続殺人事件の犯人が佐伯洋介であると示している。

警察の監視の下、山梨の病院にいる佐伯は麻酔が効いていてまだ目覚めない。彼の口から事の全貌を聞き出せるのはもう少し先になりそうだ。

有紗の母親の失踪事件と女子高生連続殺人事件は表面上は解決に向かっていると思われた。
< 99 / 113 >

この作品をシェア

pagetop