姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

45. お誕生日大作戦

 カーティスさんのお誕生日!?

「そ、そうなんですか? アマンダさん、よくご存知ですね」
「ええ。たまたま去年の今頃にね、お庭を掃除していたら、カーティスさんが庭師の人たちとそんな雑談をしているのを聞いたのよ。だから、こうしてあなたみたいに“日頃のお礼です”って言って贈り物でもしたいなぁ、なんて思っていたんだけど……。実際はまるでダメ。渡すどころか贈り物を選びに行く勇気さえも出なくて、結局何もできなかったわ」
「そうだったんですか……」
「ええ。だから今年こそ、何かできないかなぁって。ついそのことばかり考えてしまって……」
「贈り物を渡す時に、いろいろと二人でお話しできるかもしれませんしね!」
「そ、そうなのよ。それもちょっと期待しちゃう」

 そう言ってアマンダさんはまた頬を染めて照れている。可愛い。

「じゃあぜひ渡しましょうよ! 贈り物を! なんなら私、ついていきますよ、アマンダさんの贈り物選びのお買い物に」
「ふふ、ありがとう。ミシェルさんと二人で街でお買い物かぁ。とっても楽しそうだわ。ただね……、カーティスさんが何をお好きで、何をあげれば喜んでくれるのか、私全く分からなくて……」
「そうなんですね。じゃあ、ご本人に聞いてみたらどうですか?」
「そっ!! それができたら苦労しないわよ……っ! やだわミシェルさんったら!」

 そう言うとアマンダさんはまた顔を真っ赤にして両頬を手で覆い、体を左右に振って悶えはじめた。そういうものなのか。
 うーん、じゃあ……。

「私がさりげなく聞き出してみましょうか? カーティスさんに」

 私がそう提案すると、アマンダさんがパッと顔を上げて目を輝かせる。

「ほ……本当? ミシェルさん、聞いてみてくれる?」
「もちろんです! そんなことでよければ、喜んで」
「あ……ありがとう……っ! 嬉しいわ」
「ふふ。頑張りますから、上手くカーティスさんの欲しいものを聞き出せたら、お買い物に行きましょうね」
「ええ! すごく楽しみ! ……ああ、どうしよう。なんだか今から緊張しちゃうわ……」
「まだ早いですよ、アマンダさん」

 私たちはその後大いに盛り上がり、珍しく深夜まで話し込んだのだった。普段は落ち着いていて穏やかなアマンダさんが、頬を染め目をキラキラと輝かせながら笑っている姿はとても新鮮で、なんだか私までワクワクした。

(よーし……こうなったら何が何でも、カーティスさんが最高に喜ぶ贈り物を準備しなくちゃ……!)

 カーティスさんのお誕生日は約二週間後。それまでに機会をうかがって、どうにか好みを聞き出さなくては……!



 そう気合いを入れてからというもの、カーティスさんと個人的に話をするチャンスを得ようと、私は可能な限り彼の動きに目を光らせた。とはいえ、もちろん自分の仕事を疎かにするわけにはいかないから、四六時中カーティスさんのことだけを気にしてもいられない。しかも向こうは常に旦那様と行動を共にしている。意気込んだものの、なかなか二人きりで話す機会を得られずに、私は徐々に焦りはじめた。

(ど、どうしよう……。あっという間に五日も経っちゃった。せっかくアマンダさんのお役に立てると思ったのに、このままじゃ空振りに終わっちゃうわ……!)

 これ以上うかうかしていられない。ギリギリになって好みを聞き出したところで、アマンダさんが贈り物を準備する時間がなくなっちゃう。
 頭を抱えはじめた私だったけれど、ある日の午後、多少強引にその機会を得ることができた。

 その日は珍しく、旦那様がお昼過ぎに屋敷に戻ってきた。いつものようにカーティスさんも一緒だ。たまたま一階の廊下を掃除していた私は二人に出くわし、内心ガッツポーズをする。

「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。ただいま、ミシェル」

 最近の旦那様はこうしていつも私の名を呼んでくださる。そしてその時の瞳が、とても優しい。
 これはもう……すっかり心を許していただけたということで間違いないだろうか。
 旦那様に続いてカーティスさんも階段へと向かっている。私は小さく気合いを入れると、カーティスさんに控えめに声をかけた。

「あの……カーティスさん。ちょっといいですか?」
「んあ?」

 こちらを振り返るカーティスさん。するとなぜだか、先に階段を上がっていた旦那様まで私の方を振り返った。……どうしよう。ちょっと気まずい。
 私語は止めろと怒られるだろうか。私はそそくさとカーティスさんに近寄ると早口で言った。

「い、今から昼食ですか?」
「ああ、そうだな。どうかしたのか?」
「あ、いえ……。その、後で少しだけ、ちょっとお話ししたいことがあって……お時間いただけますか?」
「え? 俺に? 別にいいけど、今じゃダメなのか?」

 階段の半ばから、旦那様が身じろぎもせずにこちらをずっと見ている。マズい。注意されるかしら。変な汗が出てきた。

「こ、ここじゃ何ですし。勤務中ですので……。よかったらまた後で、少しだけお話しさせてください」
「……ああ。そりゃいいけど」

 不思議そうな顔をするカーティスさんに「ありがとうございます。では、お食事後にお庭で……」と手短に伝え、私は真面目さをアピールするためにすぐさま掃除に戻った。
 旦那様は最後までずっと私のことを見つめていた。
 




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