姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
5. スティーブの言い訳
その叫び声に心臓がドクッと跳ねる。私の上で蠢いていたスティーブ様の動きがピタリと止まり、血走った目をカッと見開く。そしてそのまま、まるで機械仕掛けの人形のようにギシギシとぎこちなく部屋の入り口の方を振り返った。隙間にできた空間から、私も扉の方を見る。
そこにはスティーブ様と同じように目を見開いたパドマがいて、両手で口元を押さえながらこちらを見ていた。
「パッ! パッ! パパパパドマ……ッ!!」
「お父様ぁっ! お母様ぁっ!! 早く……早く来てぇっ!! スティーブ様が……スティーブ様とミシェルがぁ……っ!!」
「ひ……っ!! ち、ちょっとまって……っ」
パドマの金切り声を合図に、スティーブ様が焦って動き出す。彼が上体を起こし乱れた服を必死の形相で整えていると、あっという間にエヴェリー伯爵と夫人が部屋の入り口までやって来た。二人は中を見ると、彼らと同様に目を大きく見開いた。
(よかった……助かったのね……)
ホッとした私は、また新しい涙をこぼした。
「な……っ! こ、これは一体……、一体どういうことだ!?」
「まぁっ! な、なんて汚らわしい……! こ、こんな……よくもこんな……!」
すると、次の瞬間。
強い衝撃とともに、私の体はベッドの下に放り出された。突然体が宙に浮いたその一瞬の感覚に息を呑む間もなく、私の体は床に強かに打ちつけられたのだ。痛みで思わずうめき声が出る。
「よ、よかったよパドマ! 帰ってきてくれて……! ぼ、僕は騙されたんだ、このミシェルに……! 大事な用事があるから、部屋に来てほしいって。どうしても見てほしいものがあるからって、すごくしつこく言われてさ……! 渋々部屋までついてきた途端、扉を閉めたミシェルが僕に抱きついてきたんだよ。それはもう、飛びかかる勢いでさ……!」
「……っ! な……何を……!」
スティーブ様の言葉が信じられず、私は思わず彼を見上げた。スティーブ様はせっせとシャツの乱れを直し、ズボンの前を閉めながらエヴェリー一家の方を向いてそう釈明しはじめたのだ。私はベッドの下で上体を起こしながら、呆気にとられてただ彼を見つめるしかなかった。
「ずっとスティーブ様のことが好きだったんです。思い出が欲しいから、一度だけ抱いてくださいって……。ぼ、僕は必死で抵抗したさ! 冗談じゃない。僕はパドマを愛しているし、君などとベッドを共にする気など毛頭ないって。だけどもう、この子が本当にしつこくて……。しまいには狂ったように叫びながらがむしゃらに僕の頬をはたいて、僕がよろめいた隙に力ずくでベッドに押し倒してきたんだよ! もう僕は、恐怖でどうにかなりそうだった……!」
「……何ですって……!? ミシェル、あんた……!」
スティーブ様の言い訳を聞いたパドマは、凄まじい形相で私のことを睨みつけてきた。信じられない。まさか、こんな下手な言い訳を真に受けてしまったの……? 私の方が無理矢理組み伏せられていたのを、この人たちは見たはずなのに。
「違います……違いますパドマさん……! 私はそんなことしていませんっ! スティーブ様が、と、突然私を……」
「はぁぁ!? じゃあ何? あんたまさか、スティーブ様の方からこの地下室に誘ってきたとでも言うつもり? 彼が……ヘイゼル伯爵家の令息が、この私の婚約者が、あんたのような汚いなりをした見苦しい女を誘ったと……? 聞いた!? お父様! お母様! ねぇ、信じられる? この女ったら……!!」
パドマはこれ以上ないほどに大仰に顔を歪めてそう言い放つと、真後ろで愕然としているエヴェリー伯爵夫妻に向かって同意を求めた。エヴェリー伯爵夫人はあぁ……とうめき声を上げながら、手で顔を覆った。
「なんて恐ろしい娘かしら……! パドマの婚約者と知っていながら誘惑するなんて。エヴェリー伯爵家の汚点となったお前の母親が死んで以来、それでもこの屋敷で慈悲深くお前を育ててきてあげたというのに……こんな恩知らずな話がある!? 恥を知りなさいミシェル!!」
「っ!! で、ですから……私は何も…….!!」
私の方が悪いと決めつけ責め立ててくるパドマと伯爵夫人の言葉に、必死で反論しようとした、その時だった。
エヴェリー伯爵がおもむろに私に近付き、手にしていた杖を大きく振り上げた。咄嗟に体を丸めた私の背中に、強烈な痛みが走る。
「う……っ!」
二度、三度。背中、腰、頭を庇っていた手の甲と、強い痛みが何度も私を襲う。やがて伯爵の恨みがましい低い声が、部屋の中に響き渡った。
「やはりあのシンシアの娘だ……。あばずれが!! これ以上このエヴェリー伯爵家の面汚しとなるくらいならば、お前など捨ててくれるわ」
そこにはスティーブ様と同じように目を見開いたパドマがいて、両手で口元を押さえながらこちらを見ていた。
「パッ! パッ! パパパパドマ……ッ!!」
「お父様ぁっ! お母様ぁっ!! 早く……早く来てぇっ!! スティーブ様が……スティーブ様とミシェルがぁ……っ!!」
「ひ……っ!! ち、ちょっとまって……っ」
パドマの金切り声を合図に、スティーブ様が焦って動き出す。彼が上体を起こし乱れた服を必死の形相で整えていると、あっという間にエヴェリー伯爵と夫人が部屋の入り口までやって来た。二人は中を見ると、彼らと同様に目を大きく見開いた。
(よかった……助かったのね……)
ホッとした私は、また新しい涙をこぼした。
「な……っ! こ、これは一体……、一体どういうことだ!?」
「まぁっ! な、なんて汚らわしい……! こ、こんな……よくもこんな……!」
すると、次の瞬間。
強い衝撃とともに、私の体はベッドの下に放り出された。突然体が宙に浮いたその一瞬の感覚に息を呑む間もなく、私の体は床に強かに打ちつけられたのだ。痛みで思わずうめき声が出る。
「よ、よかったよパドマ! 帰ってきてくれて……! ぼ、僕は騙されたんだ、このミシェルに……! 大事な用事があるから、部屋に来てほしいって。どうしても見てほしいものがあるからって、すごくしつこく言われてさ……! 渋々部屋までついてきた途端、扉を閉めたミシェルが僕に抱きついてきたんだよ。それはもう、飛びかかる勢いでさ……!」
「……っ! な……何を……!」
スティーブ様の言葉が信じられず、私は思わず彼を見上げた。スティーブ様はせっせとシャツの乱れを直し、ズボンの前を閉めながらエヴェリー一家の方を向いてそう釈明しはじめたのだ。私はベッドの下で上体を起こしながら、呆気にとられてただ彼を見つめるしかなかった。
「ずっとスティーブ様のことが好きだったんです。思い出が欲しいから、一度だけ抱いてくださいって……。ぼ、僕は必死で抵抗したさ! 冗談じゃない。僕はパドマを愛しているし、君などとベッドを共にする気など毛頭ないって。だけどもう、この子が本当にしつこくて……。しまいには狂ったように叫びながらがむしゃらに僕の頬をはたいて、僕がよろめいた隙に力ずくでベッドに押し倒してきたんだよ! もう僕は、恐怖でどうにかなりそうだった……!」
「……何ですって……!? ミシェル、あんた……!」
スティーブ様の言い訳を聞いたパドマは、凄まじい形相で私のことを睨みつけてきた。信じられない。まさか、こんな下手な言い訳を真に受けてしまったの……? 私の方が無理矢理組み伏せられていたのを、この人たちは見たはずなのに。
「違います……違いますパドマさん……! 私はそんなことしていませんっ! スティーブ様が、と、突然私を……」
「はぁぁ!? じゃあ何? あんたまさか、スティーブ様の方からこの地下室に誘ってきたとでも言うつもり? 彼が……ヘイゼル伯爵家の令息が、この私の婚約者が、あんたのような汚いなりをした見苦しい女を誘ったと……? 聞いた!? お父様! お母様! ねぇ、信じられる? この女ったら……!!」
パドマはこれ以上ないほどに大仰に顔を歪めてそう言い放つと、真後ろで愕然としているエヴェリー伯爵夫妻に向かって同意を求めた。エヴェリー伯爵夫人はあぁ……とうめき声を上げながら、手で顔を覆った。
「なんて恐ろしい娘かしら……! パドマの婚約者と知っていながら誘惑するなんて。エヴェリー伯爵家の汚点となったお前の母親が死んで以来、それでもこの屋敷で慈悲深くお前を育ててきてあげたというのに……こんな恩知らずな話がある!? 恥を知りなさいミシェル!!」
「っ!! で、ですから……私は何も…….!!」
私の方が悪いと決めつけ責め立ててくるパドマと伯爵夫人の言葉に、必死で反論しようとした、その時だった。
エヴェリー伯爵がおもむろに私に近付き、手にしていた杖を大きく振り上げた。咄嗟に体を丸めた私の背中に、強烈な痛みが走る。
「う……っ!」
二度、三度。背中、腰、頭を庇っていた手の甲と、強い痛みが何度も私を襲う。やがて伯爵の恨みがましい低い声が、部屋の中に響き渡った。
「やはりあのシンシアの娘だ……。あばずれが!! これ以上このエヴェリー伯爵家の面汚しとなるくらいならば、お前など捨ててくれるわ」