姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

69. 繋がった心

 ここ数日のもやもやが一気に解消され、まるで霧がサァッと晴れていくように、私は全てを理解した。
 旦那様が私を見つめて微笑んだり、抱きしめたり、やけに優しくしてくださる理由が。私に必要になるからと、何着ものドレスを作ってくださっている事情が……。

 旦那様が……この私を、妻に……。
 私と、結婚しようと考えてくださっている……!?

 体中が火照り、頬も耳も熱くてジンジンする。私は唇を震わせながら、両手で真っ赤な頬を覆った。

「で、ですが……っ! なぜですか……? 旦那様。なぜ、こんな、わ、私なんかを、妻にと……」

 いまだ混乱しながら私がそう尋ねると、旦那様も立ち上がり、真正面から私を見つめて言った。

「そんなもの、決まっている。君を愛しているからだ。他の理由などあるはずがない」
「…………っ!!」

 あ、愛してる……? 旦那様が、この私を……?

(じゃあ私……、私もこの想いを、隠さなくてもいいの……?)

 じわじわと喜びが込み上げてくる中、旦那様が私の両肩にそっと手を添えた。そして少し自信なさげな表情で私を見つめる。旦那様のこんな顔を見たのは初めてだった。

「ミシェル、私はてっきり……この想いを君が受け入れてくれたものだとばかり思い、浮かれきっていたのだが……。君の本心は、どうなんだろうか。この私の妻となり、共に歩んでいく人生を、選択してくれる気持ちはあるのだろうか」
「……旦那様……」
「改めて伝えさせて欲しい、ミシェル。私は君を愛している。女性に対してこんな想いを抱くのは、生まれて初めてのことだ。私にとって、君だけが特別なんだ。その柔らかな美しい笑顔を、これからもずっと見守らせてほしい。……君のそばに、いさせてほしい」

 心のこもったそれらの言葉が、私の胸の中にじんわりと染み渡る。その温もりが嬉しくて、私の瞳からは次々に涙がこぼれた。
 私だけに向けられる旦那様の美しい瞳を見つめ返しているうちに、私の唇は自然と言葉を紡いでいた。

「……はい、旦那様。喜んで。私も旦那様のことが好きです。いつの間にか、こんなにも大好きになっていました」

 そう言って微笑んだ瞬間、私の体は旦那様の胸の中にあった。背中を包み込む、旦那様の大きな手。こめかみに押し当てられた旦那様の唇から、掠れた声が漏れる。

「……よかった……。ありがとう、ミシェル」

 短いその言葉から旦那様の気持ちが痛いほど伝わってきて、くすぐったさにますます頬が火照る。すると旦那様は、小さな声でこう言った。

「……やはりあの時、こうしておけばよかったのか」
「え……?」

 私が顔を上げると、旦那様の手が私の顎の辺りに触れた。
 そして────

「…………っ、」

 ふわりと唇に降りてきた温もりに、息が止まる。
 反射的に目を閉じた私は、頭がクラクラするほどの高揚の中、旦那様からの初めての口づけを受け入れたのだった。







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