備えあれば憂いなし
第二話 出会いは雷雨の中
◯回想シーン - 雷雨の中
2年前。
雷鳴が響き、激しい雨が降りしきる中、凛子がひとり、傘も持たずに途方に暮れている。
彼女の心は暗い思い出に沈んでいる。
凛子(心の声)「もうどうすればいいのか……。37歳、アラフォー、金も職も家も失う寸前……」
凛子は雨に打たれ、涙を流す。
凛子(心の声)「全て私が悪いんだ……。」
人々は傘を差しているが、凛子には声をかける人は誰もいない。
??「……さんっ」
ふと、誰かの声が聞こえ、凛子は驚いて振り返る。
??「お姉さん、なにやってんの?」
そこには、傘をさした男が立っていた。彼はダンボールの看板を持ち、『お笑いライブチケット当日券あります! 』と書かれている。
彼の手書きの字は雨でにじんでいるが、凛子の目に留まる。
シン「濡れますよ。それにもうすぐ雷が来ますし。」
凛子を傘に入れたので彼自身も服が濡れる。シンが凛子の手を優しく引き、屋根の下まで連れて行く。
◯屋根の下
凛子は雨から逃れ、安堵の息をつく。周りの若い女の子たちがタオルを差し出してくれる。
シン「僕が拭くとセクハラになるから、任せていいかな?」
女の人「は、はい……大丈夫?」
凛子「すいません……」
シンは気づくとどこかに行ってしまった。凛子は言葉を発することができずにいる。心の中では、感謝と戸惑いが渦巻いていた。
凛子(心の声)「人にこんなにも優しくしてもらえるなんて……久しぶりだ」
若い女の子たちが助けてくれる中、別のスタッフが近づいてくる。
スタッフ「お姉さん、体が冷えちゃうよ。しっかり拭いて。そうだ、ルームウェアがあるから、着替えて。」
(凛子はまた驚く。自分のためにここまでしてくれるなんて、信じられなかった。)
凛子「……なんでこんな私のために?」
また涙がこみ上げてくる。周りの優しさに心が温まる。
スタッフ「売り子の子がずっと濡れてる子がいるって言うから……」
凛子「売り子さん……?」
他の女性たちも色とりどりのタオルで凛子を拭き、人々の優しさが、彼女の心の傷を少しずつ癒していく。
◯劇場の楽屋
凛子は着替えのために通された楽屋に入る。そこにはテレビがあり、画面に映っているのはさっきの青年、シン。
スタッフ「あ、この子よ。シン。葛城シン。まだ駆け出しの芸人さんで売り子もしなきゃいけないのよねー。」
彼女は画面の中のシンを見つめ、心が高鳴る。
凛子(心の声)「彼が、私を助けてくれた人……。」
画面では、シンがステージに立ち、パチパチとまばらな拍手が聞こえてくる。
スタッフ「この子達は前説なの。今日はピンピンズの単独ライブなの。ファンたちはこの前説の芸人には興味がないけど……」
(画面の中の)シン「こんにちは、葛城シンです! 今日は皆さんに楽しんでもらうために来ました!」
凛子は画面から目が離せない。シンの姿に心が惹かれていく。
スタッフ「優しい子なのよ、ほんと……」