備えあれば憂いなし

第三話 雨に流れない過去

◯ 凛子の部屋(婚約者の契約したもの)

凛子が自宅に帰り、部屋の明かりを点ける。
ずぶ濡れの服を真新しい洗濯機に入れる。
部屋の中には付箋だらけのゼクシィ、結婚式場のキャンセル料の請求書、ノートが乱雑している。その合間にバイト募集雑誌、住宅情報誌。

この部屋もあと一か月しかいられない。自分の荷物も乱雑している。
それを見て一気に現実に戻る。

凛子(心の声) 「はぁ、ほんとどうしよ」

◯回想 - さらにこのシーンよりも半年前の結婚式場で

結婚式の準備をしていた凛子。
左手には婚約指輪が光る。
凛子がウエディングドレスを試着し、婚約者の雅司のまえで嬉しそうに微笑む。
マンションを探したり家具や電化製品を選んで契約したマンションに囲まれる。
幸せの絶頂だった。

しかし凛子が笑顔でいる場面が、暗転。
2人でご飯を食べている。婚約して同居をし始めて一週間後の夜。

顰めっ面の雅司。凛子が作ったヒジキ煮を吐き出した。
雅司「……なんっだこれ」
凛子「(絶句)」
雅司「ごはんろくにひとつも作れないのかよ」
凛子「ごめんなさい……」
雅司「どのレシピを見た?見せろ!」
凛子「……ネットのクックタイム見て作ったの」
雅司「なんだと!あの素人たちが載せてるサイト見て作るなんてまずいに決まってるだろ!俺や母さんがプレゼントした料理本を見てしっかり分量守って作れって言ったろ?」
凛子にはこんな口調で言う姿は無かったが、会社で彼の部下をネチネチ叱りつけているところは見ていた。

雅司は立ち上がる。
凛子「……食べないならいいよ」
雅司の食べ残したひじき煮を捨てようと台所に持っていく凛子
それを見た雅司は
雅司「逆ギレかよ、あーあ、無駄だね。お前は会社の時もなんにもできなくってさ、周りにどれだけ迷惑かけてたの自覚ないわけ?」
凛子は今までにない雅司の言動に震え上がる。

雅司は冷蔵庫からガラス容器に入った料理を取り出す。家に帰ってきた際に入れていたものだ。
雅司「母さんがさ、見かねて俺に持たせてくれたんだよ」
凛子「……まさか実家に寄ったの?だから今日遅かったの?」
雅司「そうだよ、悪い?」
とおもむろにその料理を食べ勧めて凛子の用意したごはんは一切手をつけなかった。

◯雅司の実家

凛子が緊張した表情で座っている。
同居して一ヶ月。雅司は同居してから三週目で実家に帰ってた。婚約破棄のため両家で話し合いをしていた。

それまでに色々と雅司からモラハラを受けてボロボロの凛子。顔の表情が無い。

義母「あら、顔色悪いわねー。もしかしてつわり?」
義父「おいおい、婚約破棄してから妊娠とかやめてくれよ」
凛子「……違います」
凛子の親たちも動揺してる。

雅司「一応避妊はしてなかったけどさ」
義母「あらっ! なのに妊娠したかったの?やっぱり30超えると妊娠する確率も落ちるのかしら」
義父「もしかしたらまだ妊娠してる可能性もあるかもしれない……ちゃんと調べたらどうだい?」
義母「お父さん!」
義父「だってさぁー孫欲しいじゃん」

義父母たちのデリカシーのなさは雅司と同じだ……
これまでの雅司からのモラハラ言動と重なり

凛子(心の声): 「もう、これ以上は無理だ。」

◯雨の中

凛子が外に飛び出し、雷雨の中でずぶ濡れになっている。
家族からの静止を振り切って外を飛び出した。


……そんな日にシンと出会ったのだった。
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