【改稿版】罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~【電子書籍化進行中】
15 恋人のふりが始まりました
シオン殿下はニコニコしながら私を見つめている。
私はシオン殿下のどこにキスをすれば犯罪者にならず捕まらないのか必死に考えた。
もちろん、シオン殿下の唇を汚(けが)すなんてことはあってはならない。頬や髪もさわることすら恐れ多い。
静かに考えを巡らせた結果、私は閃いた。
はっ⁉ そうだ……指だわ!
都合が良いことに指は十本ある。私はシオン殿下のほうを向くと、恐る恐る殿下の右手に触れた。
シオン殿下は「手の甲へのキスは前にしたから、もうダメだよ」と言いながらクスッと笑う。
「は、はい」
シオン殿下の長く綺麗な指にふれるかふれない程度にそっとキスしていく。五本の指すべてにキスし終わると、殿下は「そうくるかぁ」と苦笑した。
「あと一回残っているけど、どうするの?」
私がシオン殿下の左手にふれようとすると、殿下は「ダメだよ」と言いながら左手を持ち上げた。
「同じところはダメだよ」
「え、でも、右手と左手は違います」
「ダメ」
ニッコリと微笑みながらそう言われると、これ以上反論できない。仕方がないので私は、シオン殿下の右手の手のひらにキスをした。
手のひらへのキスは、『求愛』『懇願』『独占欲』だったっけ?
そう思うと恥ずかしくてシオン殿下の顔を見られない。私がうつむいていると、ガタリと馬車が揺れた。
揺れのせいでシオン殿下の身体が私のほうに傾いた。
私が慌ててシオン殿下を支えようとすると、偶然、殿下に抱き締められるような格好になってしまった。
シオン殿下は、私の髪に顔を押し付けるようにしていて顔が見えない。
「だ、大丈夫ですか?」
心配になってシオン殿下に声をかけると「大丈夫じゃない、かも」という熱っぽい声が返ってきた。
「シオン、もしかして体調が悪いんですか?」
朝から眠そうだったがそもそも体調が悪かったのかもしれない。ゆっくりと顔を上げたシオン殿下は「お陰様で体調はすこぶる良いよ」と顔を赤くしている。
「でも、熱がありそうですよ」
心配になってシオン殿下の額に手を当てると、殿下は気持ちよさそうに目を閉じた。
「はぁ……。もう一生、学園に着かなければ良いのに」
「今日は、お休みしますか?」
「休まないよ。まぁ、私とローレルはもうすべての学業が終わっているから、本当は行かなくてもいいんだけどね」
「そうなんですか⁉」
「うん、王子である私たちがあの学園に通う目的は社会勉強と、あと婚約者探しだから」
『婚約者探し』というシオン殿下の言葉が、小さなトゲになって私の胸にチクリと刺さる。
そうだよね……。シオン殿下は本当なら手の届かない人なんだから。こうして恋人のふりをさせてもらえているだけで感謝しないと!
それに、いつまでも心の中で『シオン殿下』と呼んでいては、いつかボロが出てしまうかもしれない。もっと本気で恋人のふりに向き合わなければ。
そのためにも、これからは心の中でも『シオン』と呼ぶことに決めた。
そんな覚悟と共に、私はシオンの右手を両手で握りしめる。
「シオン、体調が悪ければ、いつでも私を頼ってくださいね! 私は学園にいる間は、その、シオンの恋人なので!」
一生懸命シオンにそう伝えると、なぜかシオンの熱が上がったような気がした。
そうしているうちに、私たちが乗っている馬車は学園内へと入って行く。
馬車降り場は、麗しい王子様に一目お目にかかろうとする生徒で溢れていた。その様子をカーテンの隙間から見た私は、今さらながらに憂鬱な気分になる。
今からあの人たちの中に降りていくのね……。しかも、シオンの恋人のふりをしながら。
馬車がとまると、シオンが先に降りた。ローレル殿下ほどではないけど、黄色い悲鳴や小さな歓声が上がっている。
シオンは輝くような笑みを浮かべながら、私に右手を差し出した。
エスコートしてくれるみたいね。私もしっかり恋人のふりをしないと!
私が覚悟を決めてシオンの手をとり馬車から降りると、辺りはシンッと静まり返った。あまりの気まずさに私がうつむくと、シオンは何食わぬ顔で私の腰に手を回し抱きよせる。
ザワッとざわめく生徒たちを無視して、シオンは私の腰に手を回したまま歩き出した。背後から「シオン殿下の新しい恋人⁉」「あれが⁉」と失礼な言葉が聞こえてくる。
そう言いたくなる気持ち分かるわ……。
華やかなシオンに釣り合っていないことは、自分が一番よく分かっている。でも、この『恋人のふり』はシオンの悪いウワサをなくすために必要なことだ。
私なりに精一杯がんばろう! 今はシオンの彼女なんだもの、幸せそうな顔をしないと!
私が顔をあげて幸せそうに微笑むと、ざわめく生徒たちの中に目立つ赤髪が見えた。
うわっ、サジェスだ。
サジェスは、信じられないものを見てしまったように目を見開いている。私の頭の中に『モブ女のくせに!』という言葉がよぎり身体が強張ってしまう。
私がサジェスから目を離せないでいると、急に目の前にシオンが現れた。
「リナリア、よそ見しないで」
すねるような口調でそう言ったあとに、シオンが私の髪に優しく口づけをする。
女生徒たちの間から悲鳴のような声が上がった。
「……すみません」
周囲に聞こえないようにシオンに謝ったあと、私は恋人に見えるように、そっとシオンの腕に寄り添った。
私はシオン殿下のどこにキスをすれば犯罪者にならず捕まらないのか必死に考えた。
もちろん、シオン殿下の唇を汚(けが)すなんてことはあってはならない。頬や髪もさわることすら恐れ多い。
静かに考えを巡らせた結果、私は閃いた。
はっ⁉ そうだ……指だわ!
都合が良いことに指は十本ある。私はシオン殿下のほうを向くと、恐る恐る殿下の右手に触れた。
シオン殿下は「手の甲へのキスは前にしたから、もうダメだよ」と言いながらクスッと笑う。
「は、はい」
シオン殿下の長く綺麗な指にふれるかふれない程度にそっとキスしていく。五本の指すべてにキスし終わると、殿下は「そうくるかぁ」と苦笑した。
「あと一回残っているけど、どうするの?」
私がシオン殿下の左手にふれようとすると、殿下は「ダメだよ」と言いながら左手を持ち上げた。
「同じところはダメだよ」
「え、でも、右手と左手は違います」
「ダメ」
ニッコリと微笑みながらそう言われると、これ以上反論できない。仕方がないので私は、シオン殿下の右手の手のひらにキスをした。
手のひらへのキスは、『求愛』『懇願』『独占欲』だったっけ?
そう思うと恥ずかしくてシオン殿下の顔を見られない。私がうつむいていると、ガタリと馬車が揺れた。
揺れのせいでシオン殿下の身体が私のほうに傾いた。
私が慌ててシオン殿下を支えようとすると、偶然、殿下に抱き締められるような格好になってしまった。
シオン殿下は、私の髪に顔を押し付けるようにしていて顔が見えない。
「だ、大丈夫ですか?」
心配になってシオン殿下に声をかけると「大丈夫じゃない、かも」という熱っぽい声が返ってきた。
「シオン、もしかして体調が悪いんですか?」
朝から眠そうだったがそもそも体調が悪かったのかもしれない。ゆっくりと顔を上げたシオン殿下は「お陰様で体調はすこぶる良いよ」と顔を赤くしている。
「でも、熱がありそうですよ」
心配になってシオン殿下の額に手を当てると、殿下は気持ちよさそうに目を閉じた。
「はぁ……。もう一生、学園に着かなければ良いのに」
「今日は、お休みしますか?」
「休まないよ。まぁ、私とローレルはもうすべての学業が終わっているから、本当は行かなくてもいいんだけどね」
「そうなんですか⁉」
「うん、王子である私たちがあの学園に通う目的は社会勉強と、あと婚約者探しだから」
『婚約者探し』というシオン殿下の言葉が、小さなトゲになって私の胸にチクリと刺さる。
そうだよね……。シオン殿下は本当なら手の届かない人なんだから。こうして恋人のふりをさせてもらえているだけで感謝しないと!
それに、いつまでも心の中で『シオン殿下』と呼んでいては、いつかボロが出てしまうかもしれない。もっと本気で恋人のふりに向き合わなければ。
そのためにも、これからは心の中でも『シオン』と呼ぶことに決めた。
そんな覚悟と共に、私はシオンの右手を両手で握りしめる。
「シオン、体調が悪ければ、いつでも私を頼ってくださいね! 私は学園にいる間は、その、シオンの恋人なので!」
一生懸命シオンにそう伝えると、なぜかシオンの熱が上がったような気がした。
そうしているうちに、私たちが乗っている馬車は学園内へと入って行く。
馬車降り場は、麗しい王子様に一目お目にかかろうとする生徒で溢れていた。その様子をカーテンの隙間から見た私は、今さらながらに憂鬱な気分になる。
今からあの人たちの中に降りていくのね……。しかも、シオンの恋人のふりをしながら。
馬車がとまると、シオンが先に降りた。ローレル殿下ほどではないけど、黄色い悲鳴や小さな歓声が上がっている。
シオンは輝くような笑みを浮かべながら、私に右手を差し出した。
エスコートしてくれるみたいね。私もしっかり恋人のふりをしないと!
私が覚悟を決めてシオンの手をとり馬車から降りると、辺りはシンッと静まり返った。あまりの気まずさに私がうつむくと、シオンは何食わぬ顔で私の腰に手を回し抱きよせる。
ザワッとざわめく生徒たちを無視して、シオンは私の腰に手を回したまま歩き出した。背後から「シオン殿下の新しい恋人⁉」「あれが⁉」と失礼な言葉が聞こえてくる。
そう言いたくなる気持ち分かるわ……。
華やかなシオンに釣り合っていないことは、自分が一番よく分かっている。でも、この『恋人のふり』はシオンの悪いウワサをなくすために必要なことだ。
私なりに精一杯がんばろう! 今はシオンの彼女なんだもの、幸せそうな顔をしないと!
私が顔をあげて幸せそうに微笑むと、ざわめく生徒たちの中に目立つ赤髪が見えた。
うわっ、サジェスだ。
サジェスは、信じられないものを見てしまったように目を見開いている。私の頭の中に『モブ女のくせに!』という言葉がよぎり身体が強張ってしまう。
私がサジェスから目を離せないでいると、急に目の前にシオンが現れた。
「リナリア、よそ見しないで」
すねるような口調でそう言ったあとに、シオンが私の髪に優しく口づけをする。
女生徒たちの間から悲鳴のような声が上がった。
「……すみません」
周囲に聞こえないようにシオンに謝ったあと、私は恋人に見えるように、そっとシオンの腕に寄り添った。