【改稿版】罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~【電子書籍化進行中】

27【サジェスSide】後悔②

 俺は転校の手続きをするために、今日、久しぶりに学園に登校することになった。

 俺が学園に行くことは、事前にシオン殿下に連絡していて「君からリナリアに会いに行かないならいいよ」と許可も得ている。

 シオン殿下の命令で折られた俺の左腕はまだ完治していないが、医者に診てもらうと医者が驚くくらい的確に処置されていたらしく、このまま固定していれば後遺症もなく綺麗に治るそうだ。

 久しぶりに訪れた学園は、たった二週間ほど休んだだけなのに、とても懐かしく思えた。俺が教室に顔を出すと、いつもの連中が駆け寄ってくる。

「サジェス、転校するんだって⁉」
「本当なのかよ⁉ ってお前、その腕どうしたんだ⁉」
「腕は剣の訓練中にへまやってな。転校のことは本当だ」

 友達たちの質問に、俺は作り笑いを浮かべて答えた。

 『ずっと騎士になりたかったこと』『ようやく両親の許可がおりて騎士の学校に通えることになった』など、シオン殿下が作った設定を忠実に守りながら話す。

 そうしているうちに、俺がリナリアにひどい罰ゲームをすることを提案して以来、仲たがいしていた友達が近寄ってきた。

 友達はぶっきらぼうに「向こうに行っても頑張れよ」と言ってくれた。

「ああ、お前も頑張れよ」

 お互いに右手を出してパンッと手を叩き合うと、それはもう仲直りの合図だった。

「転校先は遠いのか?」
「ああ、遠いな。向こうは寮生活だし、卒業するまでこっちには戻って来ない」

 それもシオン殿下が出した条件だった。

「そっか、寂しくなるなぁ」
「でもさ、サジェスは良い奴だから、どこに行ってもすぐに友達ができるよ!」

 そう言ってくれた友達に「ああ、俺もそう思う」と冗談で返して、しばらくたわいもない会話をしてから、「じゃあな」と伝えて俺は教室をあとにした。

 一人になると、『本当に良い奴は、好きな女性に暴言吐いたり、乱暴したりしないって……』と自分自身を軽蔑しながら口元を歪めた。

 転校の手続きは、書類一枚にサインをすると、あっという間に終わってしまった。

 もう、この学園には通えないのか……。

 それは二度とリナリアに会えないということでもある。

 あんなに傷つけて、ひどいことをしたのに、最後に一目でいいからリナリアに会いたいと思ってしまう俺はやっぱり最低だ……。

 通いなれた校舎に背中を向けると、背後から「待って!」と声をかけられた。振り返ると息をきらしたリナリアが立っていた。

「……リ、ナリア?」

 驚く俺にリナリアは「ケイトに聞いたの」と教えてくれる。

「ねぇ、もしかして、あなたが転校するのは私のせい?」

 悲しそうな表情でリナリアは、そんなことを聞いてくる。リナリアの声が聞こえているはずなのに、俺はリナリアに見惚れてしまい、すぐには答えられなかった。

 ああ、綺麗だな。

 好きだと分かってから見るリナリアは、とても美しかった。その髪も瞳も唇もどれも輝いて見える。リナリアの瞳に自分が映っていることが嬉しくて仕方がない。

 ……やっぱ、俺、リナリアが好きだ。

 でも、この気持ちは決して伝えてはいけない。伝えてしまうと、シオン殿下は本気でケイトを傷つけるだろう。

 俺はグッと両手を握りしめ「転校は、お前のせいじゃない」とリナリアに伝えた。

「そうなの?」
「ああ、俺は前から騎士になりたかったんだ。でも両親が認めてくれずイライラしていた。だから、お前に八つ当たりしてたんだよ」

 リナリアの顔から悲しみが消えて、その瞳に軽蔑の色が浮かぶ。

 ――好きだ。

「今まで……悪かったな」

 ――本当は、お前のことが大好きなんだ。

 今にも口から出てきそうな本音を俺は必死に抑え込む。

 リナリアは眉をひそめて「許さないわ」と言った。

「そうだよな……」

 これこそが自分が招いた結末だと俺は思った。

「私は一生、あなたを許してあげない。あなたのことは一生嫌いなままだわ」
「……ああ」

 リナリアは少しうつむいたあとに、ゆっくりと顔を上げた。まっすぐに俺を見つめるその美しい瞳から目が離せない。

「でも、もし、本当に今までのことを悪いと思っているなら、サジェスが誰かを好きになったときは、その子には優しくしてあげてね。絶対に『お前』なんて言わないで。手や肩を乱暴につかまないで。感情のままに怒鳴らないで。本当は誰にでも優しくしてほしいけど、それが無理なら、あなたの好きな人だけでいいから、優しく大切にしてあげて」

 もし、俺がリナリアに優しくしていたら……。

 リナリアに笑顔を向けて優しくエスコートしていたら? もし、シオン殿下がいなかったら……?

 君の隣で笑える、幸せな未来があったのかな?

 今にもこぼれてしまいそうな涙をこらえて俺は「分かった……絶対に、絶対に大切にする」と初めて愛した人に約束した。

 リナリアは、最後にニッコリと微笑んでくれた。

 そのあとは、リナリアと別れて馬車に乗り込んだ。一人きりになると、必死にこらえていた涙が溢れる。最後に見せてくれたリナリアの笑顔がまぶたの裏に焼き付いて離れない。

 リナリア、本当にごめんな。

 罪の意識と後悔に押しつぶされてしまいそうになりながら、言葉にならない嗚咽が馬車内に響いた。

 俺は君にひどいことしかしなかったし、最後までずっと嫌われたままだったけど……。それでも。初めて愛した人が、リナリア。君で良かった。

 今はまだ別の人を好きになるなんて想像もできない。でも、いつか他の誰かを好きになったそのときは、リナリアと交わした約束を必ず守ると、俺は固く誓った。
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