【改稿版】罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~【電子書籍化進行中】
37 護衛騎士を勧誘します
午前中の授業を終え、お昼休みにケイトと一緒に昼食を取ったあと、私は自身のお腹を押さえた。
「ねぇ、ケイト。私、お腹が痛い……ような気がするわ」
「大丈夫⁉」
心配してくれるケイトに、私は「大丈夫、仮病だから」と伝える。
「え?」
ケイトに事情を話して午後の授業を休むことを伝えるとケイトは「分かったわ。先生には上手くいっておくね」と快く協力してくれた。
ケイトと別れた私は、シオンと待ち合わせをしている場所に向かう。
その間に、授業が始まるチャイムの音が鳴り響いた。
生徒たちの姿がない学園は、まるで別世界のよう。授業をサボった罪悪感と見つかったらどうしようという緊張感の中、私は誰もいない廊下を足早に進んだ。
庭園の入口で待ち合わせをしていたシオンの姿を見たとたんに、私はホッとした。
「うまく抜け出せたみたいだね」
「すごく緊張しました」
「リナリアは真面目だね」
私が「シオンは、サボったことあるんですか?」と聞くと、予想外に「もちろん」と返ってくる。
「前にも言ったけど、私もローレルも、すべての学業が終わっているんだ。本当は学園に来なくても良いからね」
「そっか、そうでしたね」
そんなことを話しながら、私たちは並んで庭園を歩いた。背景に花があるシオンがとても絵になっていて、気を抜くと見惚れてしまう。
あれ? そういえば、ゼダ様がいないわね?
護衛のゼダ様の姿がないのでシオンに尋ねると、シオンは「念のためローレルの監視をお願いしておいたよ。もし、ローレルがこっちに向かったら報告してくれることになっているんだ」と教えてくれる。
「さすがシオン」
シオンは「リナリアに褒められると嬉しいよ」と無邪気に微笑んだ。この笑顔は本物っぽい。
シオンのことを知るたびに麗しい王子様の下に隠された本当のシオンが、少しずつ見えてきたような気がする。
「あそこにいるね」
庭園内のベンチにギアム様が寝転がっていた。
シオンはなんのためらいもなく目をつぶっているギアム様に話しかける。
「ギアム、もう気がついているんだろう?」
ゆっくりと起き上がったギアム様は「殿下。なんのご用ですか?」と言いながら大きな欠伸(あくび)をした。相変わらずネクタイをつけていないので、ギアム様の学年は分からない。
「リナリアから話があるんだ」
ギアム様がこちらを見た。その瞳の鋭さに私は思わず息を呑(の)む。
肩まで伸びた黒髪をうっとうしそうにかき上げながらギアム様は「何か?」と不愛想に聞いてきた。
怖い……。
こういう生徒を不良というのかもしれない。
「あっ、えっと」
何をどう話そうかと迷っていると、シオンが私の手を握ってくれた。
「リナリア、落ち着いて。ギアムに話しかけたくらいで、取って喰(く)われることはないから」
「殿下。なんスか、それ」
ハハッと笑うギアム様を見て、私は驚いた。
笑っているわ……。そんなに怖い人じゃないのかしら?
勇気を出して「あの、ギアム様」と声をかけると「ギアムで良いですよ」と返ってくる。
「いえ、そういうわけには……。今日はギアム様をアマリアス商会に引き抜きたくてお声をかけさせていただきました」
「アマリアス商会?」と呟いたギアム様は「はて?」と首をかしげている。
シオンが「知っているよね?」と尋ねると、ギアム様は「いえ、聞いたことがあるような気がしますが知りません」と答えた。
「この国で一番大きな商会を知らないってどういうこと?」とシオンがため息をついている。
「俺は酒しか興味ないんで」
「知っているよ。お酒のためだけに働いているんでしょう?」
二人の会話を聞いて、今度は私が首をかしげた。
「お酒って……ギアム様は未成年なのに?」
この国の法律では、学園を卒業してからでないと酒類を飲んではいけないことになっている。
ギアム様はガシガシと頭をかいた。
「俺、もう成人しているんですよ」
「ギアムは、数年前に学園を卒業しているんだよ」
「そうそう。それなのに、学園で騎士服は目立つからって、無理やり制服を着せられて、痛いったらありゃしないですよ」
その話を聞いた私は、ギアム様がネクタイをつけていない理由がようやく分かった。
ギアム様はもうすでに学園を卒業して騎士になっていたのね。じゃあ、『卒業後にアマリアス商会に就職しませんか?』って勧誘できないわ。
私が予想外の事実に呆然としていると、シオンが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫?」
「えっと……」
うまく言葉にできない私にシオンは「リナリアは、ギアムをアマリアス商会に引き抜きたいんだよね? それはギアムを私たちの味方にしたいってこと?」と確認してくれる。
「はい、そのつもりでしたけど、ギアム様がすでに卒業されているなんて思わなくて……」
シオンは「じゃあ、私に任せてくれる?」とニッコリ微笑んだ。
「は、はい」
どうするつもりなのだろうと見ていると、シオンは淡々とギアムに話しかける。
「ギアム、このまま王族や上位貴族に一生都合よく使われて生きていくつもり?」
ギアム様は「まぁ、そうなりますかね」と他人事のように答えた。
「考えてみなよ。学園内では護衛の間に休憩できるけど、私たちが卒業したらどうするつもり?」
ギアム様は、シオンに言われて初めてそのことに気がついたようで「あ」と声を漏らす。
「別にギアムは王家に忠誠を誓っているわけではないし、そもそも、長年付き合いのある私とローレルの区別もついていないよね?」
「まぁ……そうですね。学園内では金髪の男子生徒を守ってりゃいいか、くらいの気持ちです」
不敬ともとれる発言をされても、シオンは気にする様子はない。
「だったら、騎士なんて辞めれば? それとも実家の子爵家を継ぐつもり?」
「家を継ぐなんて俺は絶対に嫌ですよ。そういう面倒で堅苦しいことは弟のゼダが向いています。でも殿下、今より多く金が貰える仕事がないんですよ。ましてや、商会が俺を雇ってどうするんスか? 俺は安い酒も大好きですが、高い酒も大好きなんです」
そう力説するギアム様の意思は固そうだ。
「アマリアス商会はただの商会じゃない。貿易が主で大陸中で商売をしているんだ。そうだよね、リナリア?」
「えっと、はい。危険な地域への出入りもあるため、腕がたつ者を何人も抱えています。もし、ギアム様が来てくださるなら、王族の護衛をするよりも高い賃金をお支払いします」
ギアム様の鋭い瞳がクワッと見開いた。その怖さに思わず逃げたくなったけど、私は必死にその場に踏みとどまる。
「そ、それに、アマリアス商会は人材が豊富なため、お休みもきちんと割り当てられます」
「うーん」
腕を組みながらギアム様が唸(うな)っている。あと一押し足りないようだ。
「あとは……海や砂漠を隔てた国とも商売をしているので、ギアム様が知らないお酒も手に入るか――」
私が『手に入るかもしれません』と最後まで言う前に、ギアム様は「その話、のった!」と叫んだ。
その声の大きさに驚いた私は思わずシオンにしがみつく。そんな私をシオンはヨシヨシとなでてくれた。
ベンチから立ち上がったギアム様は、ニヤリと口端を上げて私を見下ろす。
「で? そのアマリアス商会のお嬢さんは、そんな好条件で引き抜いた俺に何をさせたいんですか?」
「ねぇ、ケイト。私、お腹が痛い……ような気がするわ」
「大丈夫⁉」
心配してくれるケイトに、私は「大丈夫、仮病だから」と伝える。
「え?」
ケイトに事情を話して午後の授業を休むことを伝えるとケイトは「分かったわ。先生には上手くいっておくね」と快く協力してくれた。
ケイトと別れた私は、シオンと待ち合わせをしている場所に向かう。
その間に、授業が始まるチャイムの音が鳴り響いた。
生徒たちの姿がない学園は、まるで別世界のよう。授業をサボった罪悪感と見つかったらどうしようという緊張感の中、私は誰もいない廊下を足早に進んだ。
庭園の入口で待ち合わせをしていたシオンの姿を見たとたんに、私はホッとした。
「うまく抜け出せたみたいだね」
「すごく緊張しました」
「リナリアは真面目だね」
私が「シオンは、サボったことあるんですか?」と聞くと、予想外に「もちろん」と返ってくる。
「前にも言ったけど、私もローレルも、すべての学業が終わっているんだ。本当は学園に来なくても良いからね」
「そっか、そうでしたね」
そんなことを話しながら、私たちは並んで庭園を歩いた。背景に花があるシオンがとても絵になっていて、気を抜くと見惚れてしまう。
あれ? そういえば、ゼダ様がいないわね?
護衛のゼダ様の姿がないのでシオンに尋ねると、シオンは「念のためローレルの監視をお願いしておいたよ。もし、ローレルがこっちに向かったら報告してくれることになっているんだ」と教えてくれる。
「さすがシオン」
シオンは「リナリアに褒められると嬉しいよ」と無邪気に微笑んだ。この笑顔は本物っぽい。
シオンのことを知るたびに麗しい王子様の下に隠された本当のシオンが、少しずつ見えてきたような気がする。
「あそこにいるね」
庭園内のベンチにギアム様が寝転がっていた。
シオンはなんのためらいもなく目をつぶっているギアム様に話しかける。
「ギアム、もう気がついているんだろう?」
ゆっくりと起き上がったギアム様は「殿下。なんのご用ですか?」と言いながら大きな欠伸(あくび)をした。相変わらずネクタイをつけていないので、ギアム様の学年は分からない。
「リナリアから話があるんだ」
ギアム様がこちらを見た。その瞳の鋭さに私は思わず息を呑(の)む。
肩まで伸びた黒髪をうっとうしそうにかき上げながらギアム様は「何か?」と不愛想に聞いてきた。
怖い……。
こういう生徒を不良というのかもしれない。
「あっ、えっと」
何をどう話そうかと迷っていると、シオンが私の手を握ってくれた。
「リナリア、落ち着いて。ギアムに話しかけたくらいで、取って喰(く)われることはないから」
「殿下。なんスか、それ」
ハハッと笑うギアム様を見て、私は驚いた。
笑っているわ……。そんなに怖い人じゃないのかしら?
勇気を出して「あの、ギアム様」と声をかけると「ギアムで良いですよ」と返ってくる。
「いえ、そういうわけには……。今日はギアム様をアマリアス商会に引き抜きたくてお声をかけさせていただきました」
「アマリアス商会?」と呟いたギアム様は「はて?」と首をかしげている。
シオンが「知っているよね?」と尋ねると、ギアム様は「いえ、聞いたことがあるような気がしますが知りません」と答えた。
「この国で一番大きな商会を知らないってどういうこと?」とシオンがため息をついている。
「俺は酒しか興味ないんで」
「知っているよ。お酒のためだけに働いているんでしょう?」
二人の会話を聞いて、今度は私が首をかしげた。
「お酒って……ギアム様は未成年なのに?」
この国の法律では、学園を卒業してからでないと酒類を飲んではいけないことになっている。
ギアム様はガシガシと頭をかいた。
「俺、もう成人しているんですよ」
「ギアムは、数年前に学園を卒業しているんだよ」
「そうそう。それなのに、学園で騎士服は目立つからって、無理やり制服を着せられて、痛いったらありゃしないですよ」
その話を聞いた私は、ギアム様がネクタイをつけていない理由がようやく分かった。
ギアム様はもうすでに学園を卒業して騎士になっていたのね。じゃあ、『卒業後にアマリアス商会に就職しませんか?』って勧誘できないわ。
私が予想外の事実に呆然としていると、シオンが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫?」
「えっと……」
うまく言葉にできない私にシオンは「リナリアは、ギアムをアマリアス商会に引き抜きたいんだよね? それはギアムを私たちの味方にしたいってこと?」と確認してくれる。
「はい、そのつもりでしたけど、ギアム様がすでに卒業されているなんて思わなくて……」
シオンは「じゃあ、私に任せてくれる?」とニッコリ微笑んだ。
「は、はい」
どうするつもりなのだろうと見ていると、シオンは淡々とギアムに話しかける。
「ギアム、このまま王族や上位貴族に一生都合よく使われて生きていくつもり?」
ギアム様は「まぁ、そうなりますかね」と他人事のように答えた。
「考えてみなよ。学園内では護衛の間に休憩できるけど、私たちが卒業したらどうするつもり?」
ギアム様は、シオンに言われて初めてそのことに気がついたようで「あ」と声を漏らす。
「別にギアムは王家に忠誠を誓っているわけではないし、そもそも、長年付き合いのある私とローレルの区別もついていないよね?」
「まぁ……そうですね。学園内では金髪の男子生徒を守ってりゃいいか、くらいの気持ちです」
不敬ともとれる発言をされても、シオンは気にする様子はない。
「だったら、騎士なんて辞めれば? それとも実家の子爵家を継ぐつもり?」
「家を継ぐなんて俺は絶対に嫌ですよ。そういう面倒で堅苦しいことは弟のゼダが向いています。でも殿下、今より多く金が貰える仕事がないんですよ。ましてや、商会が俺を雇ってどうするんスか? 俺は安い酒も大好きですが、高い酒も大好きなんです」
そう力説するギアム様の意思は固そうだ。
「アマリアス商会はただの商会じゃない。貿易が主で大陸中で商売をしているんだ。そうだよね、リナリア?」
「えっと、はい。危険な地域への出入りもあるため、腕がたつ者を何人も抱えています。もし、ギアム様が来てくださるなら、王族の護衛をするよりも高い賃金をお支払いします」
ギアム様の鋭い瞳がクワッと見開いた。その怖さに思わず逃げたくなったけど、私は必死にその場に踏みとどまる。
「そ、それに、アマリアス商会は人材が豊富なため、お休みもきちんと割り当てられます」
「うーん」
腕を組みながらギアム様が唸(うな)っている。あと一押し足りないようだ。
「あとは……海や砂漠を隔てた国とも商売をしているので、ギアム様が知らないお酒も手に入るか――」
私が『手に入るかもしれません』と最後まで言う前に、ギアム様は「その話、のった!」と叫んだ。
その声の大きさに驚いた私は思わずシオンにしがみつく。そんな私をシオンはヨシヨシとなでてくれた。
ベンチから立ち上がったギアム様は、ニヤリと口端を上げて私を見下ろす。
「で? そのアマリアス商会のお嬢さんは、そんな好条件で引き抜いた俺に何をさせたいんですか?」