【改稿版】罰ゲームで私はウソの告白をされるそうです~モブ令嬢なのに初恋をこじらせているヤンデレ王子に溺愛されています~【電子書籍化進行中】
39 正直、気持ち悪いです
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
シオンは私の手のひらにキスをすると「じゃあ、またあとでね」と言ってこちらに手を振る。
私は休憩時間中の教室に入った。すぐにケイトが気つき、仮病と分かっているうえで「お腹はもう大丈夫?」と聞いてくれた。周りにいた生徒たちに聞かせるためだ。
「大丈夫よ」
「良かった。先生にあなたのこと伝えておいたわよ。『お大事に』だって」
「ありがとう。ありがとうついでに、もう一つ頼みたいんだけど……」
「いいわよ。何?」
「実は……」
教室の騒音に紛れてケイトに耳打ちすると、ケイトはウンウンと頷いた。
「分かったわ。ゼダ様と協力して、シオン殿下の元恋人に、その人だけが知っているシオン殿下の特徴を聞いたら良いのね?」
「うん、今までに恋人になった人たちの中には、『二人の王子を見分けたい』って思った人がいると思うのよね」
「そうね。自分の恋人がどっちか分からないなんて嫌だもの」
「そうそう。だから調べてみる価値があると思うの。ケイト、変なお願いしてごめんね?」
私が謝るとケイトは「気にしないで」と微笑んだ。
「真剣なリナリアには申し訳ないけど、私は今、新しい自分を見つけたみたいでワクワクしているの」
「新しい自分?」
「うん。今まで私たち、仮病なんて使ったことないじゃない? だから、先生にあなたの仮病を伝えるとき、すごくドキドキしたわ」
「私も授業をサボったとき、すごくドキドキした……」
「そうよね。またやりたいとは思わないけど、悪い生徒になってみるのも良い経験になったわ。そのおかげで、自分には悪いことは向いてないって分かったから。だから、元恋人からの情報収集もやってみたいの。今までやったことないけど、私、たぶん、上手くできるような気がする」
確かに人を見る目があるケイトは、人から上手く情報を聞き出すことができそうだ。
「ゼダ様にもお願いしているから、二人で協力してね」
「分かったわ」
あっという間に一週間後が経った。
ケイトは元恋人たちからローレルが変装したシオンの特徴を聞き出し、紙に書いてまとめたものを私に手渡してくれた。
ケイトの隣には、ゼダ様が姿勢よく立っている。
「ありがとう、ケイト! ありがとうございます、ゼダ様」
二人にお礼を言うと、ケイトとゼダは笑みを浮かべながらお互いに視線を交わした。共同作業をしたことが良かったのか、二人は以前より親しくなっているように見える。
この二人、ちょっと良い雰囲気かも……。
内心ニヤニヤしながら私はその場からこっそり離れた。
シオンが待っているサロンに向かう途中で、バッタリとローレル殿下に会ってしまう。
急に姿を現したので待ち伏せされていたのかも?
今のローレル殿下はシオンのふりをしていて、ネクタイはシオンの学年の青色だった。
「リナリア」
ローレル殿下にニコリと微笑みかけられて、私はゾクッと寒気がした。
少し離れた場所では、大きな欠伸(あくび)をしているギアム様の姿が見える。ギアム様が味方になってくれたので、前ほどローレル殿下のことを怖いとは思わなかった。だからといって、会いたいわけではない。
どうしよう……。せっかく証言を集めたのに、それをローレル殿下に見られたら……。
こっそり手に持っていた紙束を背中に隠すと、ローレル殿下に奪われてしまう。
「あっ! 返してください!」
「これは何?」
ローレル殿下は取り返そうとする私の手を器用によけながら、紙束をパラパラとめくった。
「これって私のことを調べたんだよね? へぇ、私って左手の薬指に小さなホクロがあるんだ?」
ローレル殿下が自身の左手を見て「本当にあった」と驚いている。
「こんなことを調べてどうするの? もしかして、卒業パーティーで私を断罪してシオンを王にでもするつもり?」
「そんなつもりは……」
この国の王子は二人しかいないので、ローレル殿下が王にならなければ、シオンが王になるしかない。シオンが王になれば、私と結婚できなくなってしまう。
それは困るわ。
ローレル殿下は、ニコッと口端を上げたけど、その瞳は少しも笑っていない。
「そうだったら面白いし、ぜひやってほしいけど、リナリアは私ともっと面白いことをしようよ」
「面白いこと……ですか?」
私が警戒しながら尋ねると、ローレル殿下が嬉しそうに微笑んだ。
「リナリア、私と恋愛しよう」
とっさに言葉の意味が理解できず、私は頭が真っ白になった。
「れん、あい? ……私と、ローレル殿下が?」
「そうだよ。私と付き合ってくれたら、リナリアの願いをなんでも叶えてあげる」
「ど、どうしてですか?」
「だって、リナリアは私のことがローレルだと分かった上で嫌いでしょう?」
ローレルが右手を伸ばして触れようとしてきたので、私はとっさに後ろに飛びのいた。
気持ち悪い‼ あっ、つい思いっきり避けてしまったわ!
不敬だと怒られるかと思ったけど、ローレル殿下は両手でお腹を抑えながら笑い出した。
「あはは、すっごい顔! 全力で避けたね。そんなに嫌だった?」
どう答えたらいいのか分からず私が黙っていても、ローレル殿下は終始ご機嫌だ。
「ほんと、リナリアって最高に面白いよ!」
「わ、私はシオン殿下の恋人ですよ?」
「知っているよ。だから、シオンを助けたいと思って、こんなくだらない証言を集めたんでしょう?」
ローレル殿下は私から取り上げた紙束をヒラヒラと揺らす。
「だったらなおさら、私と付き合うべきだよ。私ならシオンを助けられる。何も一生付き合ってという話じゃないよ。私が学園を卒業するまでの間、付き合ってくれるだけでいいから、ね?」
ローレル殿下の誘いに乗れば、シオンの悪いウワサは消え、シオンが酷い目に遭うことはなくなるのかもしれない。
でも……。
私が硬く唇を結ぶと、ローレル殿下はため息をついた。
「何か言ってよ。そうだ、リナリアにだけは、私に何を言っても良い権利をあげるよ。絶対に君を罰することはない。証人はギアムだ」
急に話を振られたギアム様は「はい、証人になります」と軽く頭を下げた。
「そこまでおっしゃるなら……」
私は思い切って言いたいことを叫んだ。
「私はローレル殿下と恋愛なんて絶対にできません! 生理的に無理です! 触わらないでください、気持ち悪い! あと、性格が悪すぎます!」
ローレル殿下の紫色の瞳がこれでもかと見開いた。
「私が、生理的に、無理?」
「はい!」
「私が、気持ち、悪い?」
「はい! そして、性格が悪すぎです!」
思いっきり叫ぶと、ローレル殿下は呆然と立ち尽くした。その隙に、私は殿下の手から紙束を奪いとる。
「ローレル殿下。卒業パーティーで断罪はしません。でも、この集めた証言を元に、のちほど正式に抗議させていただきます!」
立ち去ろうとした私の腕を、ローレル殿下が素早くつかんだ。
「リナリアは、私は気持ち悪いのに、シオンは大丈夫なの?」
「はい。正確に言うと、ローレル殿下を含めた他の男性すべてが苦手です。私にとって、シオン殿下だけが特別で触れられても気持ち悪くないんです」
「シオンだけが特別で、私がその他大勢の男と同じ……?」
「そうです。よく分かりませんが、人を好きになるとか、付き合うとかってそういうことじゃないんですか?」
ローレル殿下は予想外に「そう……なんだ?」と、私の意見を素直に受け入れた。
「では、失礼します!」
ローレル殿下につかまれた腕を思いっきり振り解くと、私は逃げるように走り去った。
シオンは私の手のひらにキスをすると「じゃあ、またあとでね」と言ってこちらに手を振る。
私は休憩時間中の教室に入った。すぐにケイトが気つき、仮病と分かっているうえで「お腹はもう大丈夫?」と聞いてくれた。周りにいた生徒たちに聞かせるためだ。
「大丈夫よ」
「良かった。先生にあなたのこと伝えておいたわよ。『お大事に』だって」
「ありがとう。ありがとうついでに、もう一つ頼みたいんだけど……」
「いいわよ。何?」
「実は……」
教室の騒音に紛れてケイトに耳打ちすると、ケイトはウンウンと頷いた。
「分かったわ。ゼダ様と協力して、シオン殿下の元恋人に、その人だけが知っているシオン殿下の特徴を聞いたら良いのね?」
「うん、今までに恋人になった人たちの中には、『二人の王子を見分けたい』って思った人がいると思うのよね」
「そうね。自分の恋人がどっちか分からないなんて嫌だもの」
「そうそう。だから調べてみる価値があると思うの。ケイト、変なお願いしてごめんね?」
私が謝るとケイトは「気にしないで」と微笑んだ。
「真剣なリナリアには申し訳ないけど、私は今、新しい自分を見つけたみたいでワクワクしているの」
「新しい自分?」
「うん。今まで私たち、仮病なんて使ったことないじゃない? だから、先生にあなたの仮病を伝えるとき、すごくドキドキしたわ」
「私も授業をサボったとき、すごくドキドキした……」
「そうよね。またやりたいとは思わないけど、悪い生徒になってみるのも良い経験になったわ。そのおかげで、自分には悪いことは向いてないって分かったから。だから、元恋人からの情報収集もやってみたいの。今までやったことないけど、私、たぶん、上手くできるような気がする」
確かに人を見る目があるケイトは、人から上手く情報を聞き出すことができそうだ。
「ゼダ様にもお願いしているから、二人で協力してね」
「分かったわ」
あっという間に一週間後が経った。
ケイトは元恋人たちからローレルが変装したシオンの特徴を聞き出し、紙に書いてまとめたものを私に手渡してくれた。
ケイトの隣には、ゼダ様が姿勢よく立っている。
「ありがとう、ケイト! ありがとうございます、ゼダ様」
二人にお礼を言うと、ケイトとゼダは笑みを浮かべながらお互いに視線を交わした。共同作業をしたことが良かったのか、二人は以前より親しくなっているように見える。
この二人、ちょっと良い雰囲気かも……。
内心ニヤニヤしながら私はその場からこっそり離れた。
シオンが待っているサロンに向かう途中で、バッタリとローレル殿下に会ってしまう。
急に姿を現したので待ち伏せされていたのかも?
今のローレル殿下はシオンのふりをしていて、ネクタイはシオンの学年の青色だった。
「リナリア」
ローレル殿下にニコリと微笑みかけられて、私はゾクッと寒気がした。
少し離れた場所では、大きな欠伸(あくび)をしているギアム様の姿が見える。ギアム様が味方になってくれたので、前ほどローレル殿下のことを怖いとは思わなかった。だからといって、会いたいわけではない。
どうしよう……。せっかく証言を集めたのに、それをローレル殿下に見られたら……。
こっそり手に持っていた紙束を背中に隠すと、ローレル殿下に奪われてしまう。
「あっ! 返してください!」
「これは何?」
ローレル殿下は取り返そうとする私の手を器用によけながら、紙束をパラパラとめくった。
「これって私のことを調べたんだよね? へぇ、私って左手の薬指に小さなホクロがあるんだ?」
ローレル殿下が自身の左手を見て「本当にあった」と驚いている。
「こんなことを調べてどうするの? もしかして、卒業パーティーで私を断罪してシオンを王にでもするつもり?」
「そんなつもりは……」
この国の王子は二人しかいないので、ローレル殿下が王にならなければ、シオンが王になるしかない。シオンが王になれば、私と結婚できなくなってしまう。
それは困るわ。
ローレル殿下は、ニコッと口端を上げたけど、その瞳は少しも笑っていない。
「そうだったら面白いし、ぜひやってほしいけど、リナリアは私ともっと面白いことをしようよ」
「面白いこと……ですか?」
私が警戒しながら尋ねると、ローレル殿下が嬉しそうに微笑んだ。
「リナリア、私と恋愛しよう」
とっさに言葉の意味が理解できず、私は頭が真っ白になった。
「れん、あい? ……私と、ローレル殿下が?」
「そうだよ。私と付き合ってくれたら、リナリアの願いをなんでも叶えてあげる」
「ど、どうしてですか?」
「だって、リナリアは私のことがローレルだと分かった上で嫌いでしょう?」
ローレルが右手を伸ばして触れようとしてきたので、私はとっさに後ろに飛びのいた。
気持ち悪い‼ あっ、つい思いっきり避けてしまったわ!
不敬だと怒られるかと思ったけど、ローレル殿下は両手でお腹を抑えながら笑い出した。
「あはは、すっごい顔! 全力で避けたね。そんなに嫌だった?」
どう答えたらいいのか分からず私が黙っていても、ローレル殿下は終始ご機嫌だ。
「ほんと、リナリアって最高に面白いよ!」
「わ、私はシオン殿下の恋人ですよ?」
「知っているよ。だから、シオンを助けたいと思って、こんなくだらない証言を集めたんでしょう?」
ローレル殿下は私から取り上げた紙束をヒラヒラと揺らす。
「だったらなおさら、私と付き合うべきだよ。私ならシオンを助けられる。何も一生付き合ってという話じゃないよ。私が学園を卒業するまでの間、付き合ってくれるだけでいいから、ね?」
ローレル殿下の誘いに乗れば、シオンの悪いウワサは消え、シオンが酷い目に遭うことはなくなるのかもしれない。
でも……。
私が硬く唇を結ぶと、ローレル殿下はため息をついた。
「何か言ってよ。そうだ、リナリアにだけは、私に何を言っても良い権利をあげるよ。絶対に君を罰することはない。証人はギアムだ」
急に話を振られたギアム様は「はい、証人になります」と軽く頭を下げた。
「そこまでおっしゃるなら……」
私は思い切って言いたいことを叫んだ。
「私はローレル殿下と恋愛なんて絶対にできません! 生理的に無理です! 触わらないでください、気持ち悪い! あと、性格が悪すぎます!」
ローレル殿下の紫色の瞳がこれでもかと見開いた。
「私が、生理的に、無理?」
「はい!」
「私が、気持ち、悪い?」
「はい! そして、性格が悪すぎです!」
思いっきり叫ぶと、ローレル殿下は呆然と立ち尽くした。その隙に、私は殿下の手から紙束を奪いとる。
「ローレル殿下。卒業パーティーで断罪はしません。でも、この集めた証言を元に、のちほど正式に抗議させていただきます!」
立ち去ろうとした私の腕を、ローレル殿下が素早くつかんだ。
「リナリアは、私は気持ち悪いのに、シオンは大丈夫なの?」
「はい。正確に言うと、ローレル殿下を含めた他の男性すべてが苦手です。私にとって、シオン殿下だけが特別で触れられても気持ち悪くないんです」
「シオンだけが特別で、私がその他大勢の男と同じ……?」
「そうです。よく分かりませんが、人を好きになるとか、付き合うとかってそういうことじゃないんですか?」
ローレル殿下は予想外に「そう……なんだ?」と、私の意見を素直に受け入れた。
「では、失礼します!」
ローレル殿下につかまれた腕を思いっきり振り解くと、私は逃げるように走り去った。