虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「えーっと、つまりジュスティーヌ姉様は護衛騎士のオラースに襲われて、オラースは責任を取ってジュスティーヌ姉様と結婚する、ってこと?」
「そう……そういうことに、なったの……」

 ミランダは寝台に臥せったまま、カミーユの事実確認に弱々しく頷いた。

「あちゃー。姉上せっかくいろいろ画策してきたのに、ぜんぶおじゃんになっちゃったね。ま、どんまい! ジュスティーヌ姉様自身がこの結婚に乗り気みたいだし、まぁ、姉様の幸せを思うなら、結果的によかったじゃん!」
「あなた、わたしを励ましにきたの? 傷口に塩を塗りにきたの?」
「こういうのなんて言うんだろうね。親の心、子知らず?」
「幸せは案外すぐそばに落ちているものです」
「たしか東の国に灯台下暗しって言葉があったな。それかぁ」

 好き勝手喋り続ける男どもをじとっとした目で見ていると、カミーユはごめんごめんとちっとも誠意の感じられない声で謝った。

「さっきも言ったけど、ジュスティーヌ姉様が幸せになれるなら、よかったじゃん。それに相手が男爵家の次男坊だから、母上の機嫌も損ねることはなかったし」

 そう。オラースは爵位を受け継ぐわけではないので、平民と同じ、ただの騎士である。さすがに王女を降嫁させるには体裁が悪いので、父は爵位を叙爵するだろうが、それもせいぜい伯爵位より下か、あるいは一代限りのものだろう。母からすれば、可哀想な娘、という認識なのだ。

 もっとも、当人たちは結ばれるだけでただ幸せ、という感じではあるが。

「姉様があんな男を好きだなんて、今でも信じられないわ……」
「オラースは真面目な男だよ。だからもうジュスティーヌ姉様のことは任せて、自分のことを心配しなよ」

 自分のこと? とミランダは気怠そうにカミーユを見やる。弟は肩を竦めて、ため息をついた。

「グランディエ国への輿入れのことだよ」
「あぁ……」

 そうだ。姉がオラースと結婚するならば、グランディエ国へ嫁ぐことはできなくなる。もしジュスティーヌが無理矢理貞操を奪われていたら、何とか偽装して嫁がせたかもしれないが、純愛で結ばれた二人を引き裂くことはできない。

(となれば……)

「わたしが行くしか、ないわね……」

 諦めたように出した答えに、カミーユは目を丸くする。

「いいの?」
「だって、今さら破談にするわけにはいかないでしょう」
「うん。国同士の決め事だからね。父上も今度ばかりは拒否できなくて、今から必死に姉上にお願いする練習をしているよ。あ、母上はよくよく調べてみたらグランディエ国も悪くないわねって意見変えて、娘が王妃になれることを喜んでいるみたい」

(あの人たちは……)

 我が親ながらあきれ果てる。いや、もうこうなったら仕方がない。

「もともとわたしが嫁ぐ予定だったのだから、その通りになるだけよ」

 自分に言い聞かせるようにミランダは力なく呟いた。

 こうして、最初ジュスティーヌを身代わりとして嫁がせる予定は取りやめとなり、やはりミランダがグランディエ国へ嫁ぐことになったのだった。
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