虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
 ゴトゴトと揺れる馬車の中で、ミランダは気欝な表情でため息をつく。

(はぁ……。せめてお姉様の花嫁姿だけでも見て出発したかった)

 せっかく裏で姉にとびっきり似合う婚礼衣装を作らせていたのに、輿入れの日はミランダの方が先になってしまい、姉の結婚式を見届けることさえ叶わなくなってしまった。

(お姉様、大丈夫かしら……)

 カミーユが言ったとおり、母はジュスティーヌの結婚相手がたいした身分のない冴えない男で実に喜んでいた。しかしミランダはまだ不安を払拭できなかった。なにせ結婚相手が結婚相手である。

(せめてオラースが正々堂々と姉様を娶りたいと言ってくれれば、わたしももう少し安心できたのかもしれないのに……)

 既成事実で姉との結婚に持ち込んだ男をどうしても頼りのある男とは思えなかった。

 ジュスティーヌと結婚したいのならば、何か功績を残してからかとか、それなりの気概を見せてほしかった。

(まぁ、今は自分のことを考えるべきなんでしょうけど……)

 くれぐれも後のことを頼むと念押しする姉にカミーユはたいそう呆れて、「姉上こそ、国王陛下の機嫌を損ねて、いきなり離縁なんてされないでよ」と言われてしまった。

(いっそ離縁してくれても……なんてだめか)

 いちおう自分も王族である。果たすべき役割は心得ている。

 だがそれでもやはり姉のことが心配で、自分がこれから結婚するという実感がまるで湧かなかった。
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