虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
長い旅路を終え、無事ミランダとお付きの一行はグランディエ国の王宮へと到着した。
「ようこそ、ミランダ殿下」
(この方がグランディエ国の国王、ディオン様……)
濡れたような黒髪に、凛々しい眉、意思の強そうな琥珀色の瞳。やや厚めの唇は弧を描いており、太い首の下もがっしりとした身体つきをしていた。
姿絵で見るよりずっと精悍で、若くして王者になっただけの風格が備わっていた。
(お姉様の隣に立てば、さぞお似合いだったろうに……)
「長旅で疲れてしまったかな?」
返事のないミランダに国王が気遣うように声をかけてくる。いけない、とミランダは我に返り、腰を折った。
「初めまして、国王陛下。ミランダ・マディ・メナールと申します」
ミランダは顔を上げ、にっこりと微笑んだ。何人かの臣下がほぉ……とため息をつくのがわかった。父に可愛い! と何度も言われた笑顔だ。当然他国にも通用する……と思われたが、ディオンの表情は変わらぬままだった。しかも何も発さず、じっとミランダの顔を見てくる。
(どうしよう。何かこちらから言った方がいいのかしら)
内心焦り始めたミランダがそんなことを思った時、ディオンが笑った。ミランダはどきりとする。
彼の笑顔がとても素敵で……というわけでは全くなかった。
(怖い……)
こちらの考えなど全てお見通しだと告げるような、よからぬことをしようものならばただでは置かないぞと脅す、不敵な笑みをディオンは浮かべている。
さらに彼が発した次の言葉に、ミランダは凍り付く。
「あなたは俺の花嫁になど本当はなりたくなかったのだろう?」
……やばい。完全にばれている。
(もしかしてわたし、殺されちゃう?)
せっかく警戒心を解くことに成功した臣下たちの雰囲気も、ディオンの一言でまた不穏な空気に逆戻りしてしまった。これはまずいとミランダは口角をさらに上げ、媚を売る。
「まぁ、そんなことありませんわ。陛下の花嫁になれて、とってもとーっても光栄に思っております」
シン……と静寂が耳に突き刺さってくるようで、ミランダはもう今すぐどこかに逃げ出したかった。
もはやここまでか、と腹を括ろうとした時、ディオンがまたふっと微笑んだ。
「冗談だ」
「えっ」
「遠いところからご苦労であった。長旅で疲れただろう? しばらくの間はゆっくり身体を休めてくれ」
「あ、えっと、はい……。お気遣いいただき、ありがとうございます」
何とか平静を装いながら恭しくお礼を述べる。そしてこれ以上ぼろを出すまいと、ミランダはしずしずと退出した。その際じっと最後まで観察するディオンや側近の視線を感じていた。
(……まぁ、そんな簡単に上手くいくわけないわよね)
ミランダは宛てがわれた部屋の長椅子に座ると、静かにため息をついた。
あの様子だと、ミランダがこちらのことをいろいろ調べたように、ディオンたちも自分たちのことを調べたと思われる。
冷静に考えれば、直前までジュスティーヌが嫁ぐ予定だったのだ。てっきりもっと強烈な嫌味を言われる、あるいは激怒されると思っていたが、あれだけで済んだ。
(まぁ、それでも怖かったけれど)
ディオンがあっさり見逃してくれたのは、特に気にしていないからか、それとも嫁いできてくれただけでも感謝しているのか。
(あるいは様子見、かな……)
果たしてこれからどうなるのか……ミランダはやはりどこか他人事のように自分の行く末を思うのだった。
「ようこそ、ミランダ殿下」
(この方がグランディエ国の国王、ディオン様……)
濡れたような黒髪に、凛々しい眉、意思の強そうな琥珀色の瞳。やや厚めの唇は弧を描いており、太い首の下もがっしりとした身体つきをしていた。
姿絵で見るよりずっと精悍で、若くして王者になっただけの風格が備わっていた。
(お姉様の隣に立てば、さぞお似合いだったろうに……)
「長旅で疲れてしまったかな?」
返事のないミランダに国王が気遣うように声をかけてくる。いけない、とミランダは我に返り、腰を折った。
「初めまして、国王陛下。ミランダ・マディ・メナールと申します」
ミランダは顔を上げ、にっこりと微笑んだ。何人かの臣下がほぉ……とため息をつくのがわかった。父に可愛い! と何度も言われた笑顔だ。当然他国にも通用する……と思われたが、ディオンの表情は変わらぬままだった。しかも何も発さず、じっとミランダの顔を見てくる。
(どうしよう。何かこちらから言った方がいいのかしら)
内心焦り始めたミランダがそんなことを思った時、ディオンが笑った。ミランダはどきりとする。
彼の笑顔がとても素敵で……というわけでは全くなかった。
(怖い……)
こちらの考えなど全てお見通しだと告げるような、よからぬことをしようものならばただでは置かないぞと脅す、不敵な笑みをディオンは浮かべている。
さらに彼が発した次の言葉に、ミランダは凍り付く。
「あなたは俺の花嫁になど本当はなりたくなかったのだろう?」
……やばい。完全にばれている。
(もしかしてわたし、殺されちゃう?)
せっかく警戒心を解くことに成功した臣下たちの雰囲気も、ディオンの一言でまた不穏な空気に逆戻りしてしまった。これはまずいとミランダは口角をさらに上げ、媚を売る。
「まぁ、そんなことありませんわ。陛下の花嫁になれて、とってもとーっても光栄に思っております」
シン……と静寂が耳に突き刺さってくるようで、ミランダはもう今すぐどこかに逃げ出したかった。
もはやここまでか、と腹を括ろうとした時、ディオンがまたふっと微笑んだ。
「冗談だ」
「えっ」
「遠いところからご苦労であった。長旅で疲れただろう? しばらくの間はゆっくり身体を休めてくれ」
「あ、えっと、はい……。お気遣いいただき、ありがとうございます」
何とか平静を装いながら恭しくお礼を述べる。そしてこれ以上ぼろを出すまいと、ミランダはしずしずと退出した。その際じっと最後まで観察するディオンや側近の視線を感じていた。
(……まぁ、そんな簡単に上手くいくわけないわよね)
ミランダは宛てがわれた部屋の長椅子に座ると、静かにため息をついた。
あの様子だと、ミランダがこちらのことをいろいろ調べたように、ディオンたちも自分たちのことを調べたと思われる。
冷静に考えれば、直前までジュスティーヌが嫁ぐ予定だったのだ。てっきりもっと強烈な嫌味を言われる、あるいは激怒されると思っていたが、あれだけで済んだ。
(まぁ、それでも怖かったけれど)
ディオンがあっさり見逃してくれたのは、特に気にしていないからか、それとも嫁いできてくれただけでも感謝しているのか。
(あるいは様子見、かな……)
果たしてこれからどうなるのか……ミランダはやはりどこか他人事のように自分の行く末を思うのだった。