虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
 長い旅路を終え、無事ミランダとお付きの一行はグランディエ国の王宮へと到着した。

「ようこそ、ミランダ殿下」

(この方がグランディエ国の国王、ディオン様……)

 濡れたような黒髪に、凛々しい眉、意思の強そうな琥珀色の瞳。やや厚めの唇は弧を描いており、太い首の下もがっしりとした身体つきをしていた。

 姿絵で見るよりずっと精悍で、若くして王者になっただけの風格が備わっていた。

(お姉様の隣に立てば、さぞお似合いだったろうに……)

「長旅で疲れてしまったかな?」

 返事のないミランダに国王が気遣うように声をかけてくる。いけない、とミランダは我に返り、腰を折った。

「初めまして、グランディエ国のディオン陛下。ミランダ・マディ・メナールと申します」

 ミランダは顔を上げ、にっこりと微笑んだ。何人かの臣下がほぉ……とため息をつくのがわかった。父に可愛い! と何度も言われた笑顔だ。当然他国にも通用する……と思われたが、ディオンの表情は変わらぬままだった。

「遠いところからご苦労であった。長旅で疲れただろう? しばらくの間はゆっくり身体を休めてくれ」
「お気遣いいただきありがとうございます」

 恭しくお礼を述べ、ミランダはしずしずと退出した。その際じっと最後まで観察するディオンや側近の視線を感じていた。

(まぁ、そんな簡単に上手くいくわけないわよね)

 ミランダは宛てがわれた部屋の長椅子に座ると、静かにため息をついた。

 あの様子だと、ミランダがこちらのことをいろいろ調べたように、ディオンたちも自分たちのことを調べたと思われる。

 冷静に考えれば、直前までジュスティーヌが嫁ぐ予定だったのだ。てっきり嫌味の一つ二つ言われると思ったが、ディオンは何も言わなかった。特に気にしないのか、嫁いできてくれただけでも感謝しているのか。

(あるいは様子見、かな……)

 果たしてこれからどうなるのか……ミランダはやはりどこか他人事のように自分の行く末を思うのだった。
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