虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「お姉様!」
夢の中でミランダは少女だった。まだ両親に隠れてこっそりとジュスティーヌに会っていた頃の自分。
「ミランダ! 私の可愛い妹!」
「姉様! わたしの大好きな姉様!」
ジュスティーヌが自分に微笑み、抱きしめてくれる。ぎゅうぎゅうと、離さないとばかりの強い力で……。
「う……ねえさま、うれしいけど、少し、力がつよい気がする……」
姉にこんな力があるとは知らなかった。それとも自分に気持ちを伝えたくて強く抱きしめているのか。ならば自分も負けじと思いを返せねばと、ミランダも腕に力を込めて、姉の硬い胸板に顔を押しつけた。
(ん? 硬い?)
おかしい。姉の身体は柔らかいはずだ。そして香りもこんな大人の色気を感じるような匂いではなくて――
「えっ」
ミランダはパッと目を見開いて、一気に覚醒した。
次いで絶句する。
目の前に鍛え抜かれた胸板があったから。恐る恐る上へと視線を向ければ、安らかな寝息を立てている男の顔。
(なんで陛下がここに……)
いや、彼は自分の夫となったのだから一緒に寝ていてもおかしくはない。それに昨日は初夜だったのだから。
(いえ、待って。わたし、陛下が来る前に寝てしまって、それで……どうなったのかしら?)
まさか寝ぼけた状態で事に及んでしまった? と下をちらりと見たが、互いに服をきちんと着ているし、身体の痛みも特にない。何より記憶がないので、やはり何もなかったのだろう。
(よかった……って思っていいのかしら?)
花嫁として大事な役目を果たしていないわけだ。本当の意味で夫婦になっておらず、国の命運を背負って(というのは言い過ぎであるが)嫁いできた身としては褒められたことではない。
一方で、まだ抱かれなくてよかったと思う自分もいる。覚悟はしていたが、性交は女性にとっていろいろ負担が大きく、怖いという気持ちはどうしても拭えなかったのだ。
(わたしも意外と普通の女の子だったのね……)
そんなふうに感慨深く思っていると、ディオンがごそごそと身じろぎする。そして薄く目を開け、茫洋とした瞳でミランダを見ていたが、やがて置かれた状況を飲み込んだのか、ばっと起き上がった。
「す、すまない!」
いきなり謝られ、ミランダは目を見開く。それは一体何に対しての謝罪だろうか。
(まさか本当に抱かれてしまった?)
「あっ、いや! あなたが想像しているようなことは決してしていない。疲れているだろうから何もしないまま、俺も横になっているうちに眠ってしまって、抱き心地がいいからつい抱き寄せて眠ってしまっていたようだ」
どうやら知らぬ間に抱き枕にしてしまったことをディオンは申し訳なく思ったようだ。
七歳下の娘にあせあせと言い訳して謝る姿がなんだかおかしく思えて、ミランダはくすりと笑ってしまう。
「ふふ。あ、ごめんなさい」
目を丸くしてこちらを見つめるディオンに、ミランダはいけないと思いつつ、胸に湧いた温かな気持ちは変わらぬままだった。
「陛下。わたしの体調を気遣ってくださってありがとうございます。それから改めましてこれからどうぞよろしくお願いいたします」
深々とその場で頭を下げれば、ディオンも慌てた様子で返す。
「いや、こちらこそ! 遠いところからはるばるこの国へ輿入れしてくれて感謝している。……ありがとう、ミランダ」
ミランダは顔を上げ、微笑んだ。
「はい、陛下」
「……ディオン、ともっと気軽に呼んでくれて構わない」
「ではディオン様と。わたしのことも、もしよろしければミラとお呼びください」
家族もそう呼んでいたから、と付け加えると、ディオンはとても大事なことを聞いたように真剣な表情で了承した。
「わかった。……ミラ」
「はい、なんでしょう、ディオン様」
「いや、うん……。朝食でも食べるか」
ミランダははい、と柔らかな微笑で返事をしたのだった。
夢の中でミランダは少女だった。まだ両親に隠れてこっそりとジュスティーヌに会っていた頃の自分。
「ミランダ! 私の可愛い妹!」
「姉様! わたしの大好きな姉様!」
ジュスティーヌが自分に微笑み、抱きしめてくれる。ぎゅうぎゅうと、離さないとばかりの強い力で……。
「う……ねえさま、うれしいけど、少し、力がつよい気がする……」
姉にこんな力があるとは知らなかった。それとも自分に気持ちを伝えたくて強く抱きしめているのか。ならば自分も負けじと思いを返せねばと、ミランダも腕に力を込めて、姉の硬い胸板に顔を押しつけた。
(ん? 硬い?)
おかしい。姉の身体は柔らかいはずだ。そして香りもこんな大人の色気を感じるような匂いではなくて――
「えっ」
ミランダはパッと目を見開いて、一気に覚醒した。
次いで絶句する。
目の前に鍛え抜かれた胸板があったから。恐る恐る上へと視線を向ければ、安らかな寝息を立てている男の顔。
(なんで陛下がここに……)
いや、彼は自分の夫となったのだから一緒に寝ていてもおかしくはない。それに昨日は初夜だったのだから。
(いえ、待って。わたし、陛下が来る前に寝てしまって、それで……どうなったのかしら?)
まさか寝ぼけた状態で事に及んでしまった? と下をちらりと見たが、互いに服をきちんと着ているし、身体の痛みも特にない。何より記憶がないので、やはり何もなかったのだろう。
(よかった……って思っていいのかしら?)
花嫁として大事な役目を果たしていないわけだ。本当の意味で夫婦になっておらず、国の命運を背負って(というのは言い過ぎであるが)嫁いできた身としては褒められたことではない。
一方で、まだ抱かれなくてよかったと思う自分もいる。覚悟はしていたが、性交は女性にとっていろいろ負担が大きく、怖いという気持ちはどうしても拭えなかったのだ。
(わたしも意外と普通の女の子だったのね……)
そんなふうに感慨深く思っていると、ディオンがごそごそと身じろぎする。そして薄く目を開け、茫洋とした瞳でミランダを見ていたが、やがて置かれた状況を飲み込んだのか、ばっと起き上がった。
「す、すまない!」
いきなり謝られ、ミランダは目を見開く。それは一体何に対しての謝罪だろうか。
(まさか本当に抱かれてしまった?)
「あっ、いや! あなたが想像しているようなことは決してしていない。疲れているだろうから何もしないまま、俺も横になっているうちに眠ってしまって、抱き心地がいいからつい抱き寄せて眠ってしまっていたようだ」
どうやら知らぬ間に抱き枕にしてしまったことをディオンは申し訳なく思ったようだ。
七歳下の娘にあせあせと言い訳して謝る姿がなんだかおかしく思えて、ミランダはくすりと笑ってしまう。
「ふふ。あ、ごめんなさい」
目を丸くしてこちらを見つめるディオンに、ミランダはいけないと思いつつ、胸に湧いた温かな気持ちは変わらぬままだった。
「陛下。わたしの体調を気遣ってくださってありがとうございます。それから改めましてこれからどうぞよろしくお願いいたします」
深々とその場で頭を下げれば、ディオンも慌てた様子で返す。
「いや、こちらこそ! 遠いところからはるばるこの国へ輿入れしてくれて感謝している。……ありがとう、ミランダ」
ミランダは顔を上げ、微笑んだ。
「はい、陛下」
「……ディオン、ともっと気軽に呼んでくれて構わない」
「ではディオン様と。わたしのことも、もしよろしければミラとお呼びください」
家族もそう呼んでいたから、と付け加えると、ディオンはとても大事なことを聞いたように真剣な表情で了承した。
「わかった。……ミラ」
「はい、なんでしょう、ディオン様」
「いや、うん……。朝食でも食べるか」
ミランダははい、と柔らかな微笑で返事をしたのだった。