虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
 離婚という言葉にミランダはぎょっとしたが、やがて苦笑した。

「どうしてそうなるのよ」
「ここにいても、あなたが幸せを得られるとは思わないからです」

 だからといって結婚してそうそう離縁など許されるはずがない。これは国同士の決まり事なのだから。
 ミランダがそう伝えれば、ロジェは押し黙ったのち、口を開いた。

「あなたらしくありませんね」
「あなたの目から、普段のわたしはどう映ってるのよ」
「物事に執着せず、無理だと思ったら潔く手放す。そのことに微塵も後悔は抱かない方です」
「薄情な人間ね」

 まぁ当たっているので特に訂正はしない。別にロジェも悪い意味だけで言ったわけではないだろうから。

「私の主は、不遇な立場に置かれて耐え忍ぶよりも、ご自身でさっさと未来を切り開く神経の図太い……いえ、逞しい方ですから」

 神経の図太いという言葉は聞かなったことにしてあげよう。

「そうよ。よくわかっているじゃない。……だから、何とかしようって考えているところよ」
「……あの男にお心を許したのですか」
「国王陛下、でしょ。言葉遣いには気を付けなさい。……ディオン様のことは、正直まだよくわからないわ。でも、せっかく結婚して縁ができたもの。それに話してみた感じ、悪い方ではなさそう。振る舞いも余所余所しさはあるけれど、丁寧な方よ。だから……そうね、夫婦として仲を深めたいと思っているわ」

 ミランダがそう言うと、ロジェはまた沈黙した。

 納得するのは難しいだろうか……と思っていると、やがてゆっくりと口を開いた。

「承知いたしました。では、姫様がここで故国にいた時のように暮らせるよう、下僕である私も尽力いたします」
「ありがとう、ロジェ」

 ミランダはつい安堵した表情で礼を言った。何だかんだ言いつつ、気心の知れた人間がそばにいることは心強かった。

「礼には及びません。それで最初の話に戻るのですが、陛下に本当のことを話すつもりはないのですね」

 姉のジュスティーヌを幸せにするために意地悪していた……ように見せかけて助けていたことを話せば、ディオンの誤解も多少は解ける可能性がある。

「ええ。信じてもらえるか不安だっていうのもあるけれど……ディオン様と結婚した今では、彼に対して失礼なことをしてしまったと思って……」

 ミランダが一番に考えていたのは、ジュスティーヌの幸せである。もちろん姉とディオンならば上手く付き合っていけると確信したからこその後押しであったが、ディオンの気持ちを無視していたことは確かだ。

 そのことに、結婚した今では罪悪感を覚えていた。

「姫様はそういうところ、意外と真面目ですよね」
「失礼ね……。まぁ、とにかく、そういうわけだから済んだことは済んだこととして、これから名誉挽回していく方向で頑張ろうと思うの」
「なかなか遠回しなことをしていると思いますが……承知いたしました」

 賛同を得て今後の方針を決めたミランダは、気持ちが明るくなった。

「そうと決まったら、明日からいろいろと頑張るわ」

 ロジェは主人の宣言に微かに頷き、ちらりと扉の方を見やった。

「まずは、あなたに仕える者からですね」
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