虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「……お恥ずかしいところをお見せしてしまって、ごめんなさい」
ミランダは寝室にある一人用のソファに腰かけて、縮こまるように謝罪した。
夕食は部屋へ運んでもらい、二人で食べた。それから湯浴みをして、使用人も下がってようやく二人きりになれたところだ。
ミランダはつい感情が昂って人目も気にせず涙してしまったことを今さらながら恥じた。
「いや、別に謝ることではないだろう」
「でも」
「それほど、あなたにとってジュスティーヌ殿は大切な方なのだろう」
ディオンの言葉にミランダは素直に頷いた。
「はい。お姉様にはずっと幸せになっていたただきたいと思っていたので……本当に嬉しかったのです」
「……ミラ」
「はい」
ディオンは姿勢を正し、なぜか頭を下げてきた。
「疑ってしまって、改めてすまなかった」
ミランダは慌てていいのですとディオンの肩に触れた。
「やむをえない事情というものです。わたしは悪役に徹することで姉を助けようとしましたが、今思うと、他にも方法があったのではないかとも思うのです」
回りくどい真似などせず、ジュスティーヌを助けたいと正直に述べて、姉に自信をつけさせる。そうして、二人で母と対峙することも道もあったかもしれない。
「だが、あなたは王妃である母親の心情もまた、理解し、傷つけたくはないと思ったのだろう? 大事な家族だからこそ、板挟みになっていた。……俺にも、その気持ちはよくわかる」
「ディオン様も?」
彼はこくりと頷き、幼少時代のことを語ってくれた。
「俺の祖父は自分の兄を討って王位に即いた。苦渋の決断だったと聞かされた。初めは言葉で説得しようとしたが、聞き入れてもらえず……結局、力で王位から引きずり下ろすしかなかった」
魔女に誑かされた、とミランダは聞いていたが、実情は麻薬漬けで精神共に乗っ取られており、当時の王妃や王太子の命も危なかったと言う。
「魔女を排除して終わり、というわけではなく、祖父は兄を処刑したことや、兄の家族がばらばらになってしまったことを気に病んでいた。たとえ、仕方がないことだったとしても……。いろいろ手を尽くしたが、元通りに戻るということはもう無理で……そのことで、息子である俺の父とも何度かそりが合わず、言い争う姿を見たことがある」
罪を犯した親族よりも、自分たちの家族や国民のことを考えて、優先してほしい。
そういった不満をぶつけていたようだ。
「俺はどちらの気持ちもよく理解できた。為政者である父も本当は理解していたと思うが、自分の父親であるだけに割り切れない気持ちもあったのだと思う」
ディオンが間に入って、仲をとりなしたこともあったそうだ。
ミランダが母とジュスティーヌがぶつからず、どちらにも穏やかに暮らしてほしいと願ったように。
(お爺様だけでなく、ご両親もすでに亡くなられているのよね。会えないぶん、余計にもっと自分にできたことがあったかもしれないと後悔する気持ちがあるのかもしれない……)
「だから、あなたがどうにかしたい、という気持ちもわかる。それなのに俺は……」
「もういいのです」
理解しようとしなかった自分をまだ責めようとするディオンにミランダは優しい声で止めた。
「あなたもわたしも自分の立場があったのですから。わたしは気にしていません。今こうしてあなたがわたしのことを理解しようしてくれている。それで十分ですし、嬉しく思っております。ありがとうございます、ディオン様」
ミランダが微笑むと、ディオンは「ミラ……」と呟いたあと、いきなり抱きしめてきた。
「ディオン様?」
「あなたが、俺の妻でよかったと心の底から思う」
大げさだとミランダは笑い、背中にそっと腕を回した。
「ディオン様。あなたさえよければ、これからもあなたのことを教えてください」
「もちろん。……俺も、もっとあなたのことが知りたい」
抱擁を少し緩め、ディオンがじっと自分を見つめてくる。
琥珀色の瞳には熱が宿っており、ミランダは気づけば彼に口づけされていた。結婚式で儀礼的に交わした口づけとは違う。
「いいか?」
耳元で囁かれ、ミランダはこくりと頷いた。
二人はそのまま寝台に沈んだ。
ミランダは寝室にある一人用のソファに腰かけて、縮こまるように謝罪した。
夕食は部屋へ運んでもらい、二人で食べた。それから湯浴みをして、使用人も下がってようやく二人きりになれたところだ。
ミランダはつい感情が昂って人目も気にせず涙してしまったことを今さらながら恥じた。
「いや、別に謝ることではないだろう」
「でも」
「それほど、あなたにとってジュスティーヌ殿は大切な方なのだろう」
ディオンの言葉にミランダは素直に頷いた。
「はい。お姉様にはずっと幸せになっていたただきたいと思っていたので……本当に嬉しかったのです」
「……ミラ」
「はい」
ディオンは姿勢を正し、なぜか頭を下げてきた。
「疑ってしまって、改めてすまなかった」
ミランダは慌てていいのですとディオンの肩に触れた。
「やむをえない事情というものです。わたしは悪役に徹することで姉を助けようとしましたが、今思うと、他にも方法があったのではないかとも思うのです」
回りくどい真似などせず、ジュスティーヌを助けたいと正直に述べて、姉に自信をつけさせる。そうして、二人で母と対峙することも道もあったかもしれない。
「だが、あなたは王妃である母親の心情もまた、理解し、傷つけたくはないと思ったのだろう? 大事な家族だからこそ、板挟みになっていた。……俺にも、その気持ちはよくわかる」
「ディオン様も?」
彼はこくりと頷き、幼少時代のことを語ってくれた。
「俺の祖父は自分の兄を討って王位に即いた。苦渋の決断だったと聞かされた。初めは言葉で説得しようとしたが、聞き入れてもらえず……結局、力で王位から引きずり下ろすしかなかった」
魔女に誑かされた、とミランダは聞いていたが、実情は麻薬漬けで精神共に乗っ取られており、当時の王妃や王太子の命も危なかったと言う。
「魔女を排除して終わり、というわけではなく、祖父は兄を処刑したことや、兄の家族がばらばらになってしまったことを気に病んでいた。たとえ、仕方がないことだったとしても……。いろいろ手を尽くしたが、元通りに戻るということはもう無理で……そのことで、息子である俺の父とも何度かそりが合わず、言い争う姿を見たことがある」
罪を犯した親族よりも、自分たちの家族や国民のことを考えて、優先してほしい。
そういった不満をぶつけていたようだ。
「俺はどちらの気持ちもよく理解できた。為政者である父も本当は理解していたと思うが、自分の父親であるだけに割り切れない気持ちもあったのだと思う」
ディオンが間に入って、仲をとりなしたこともあったそうだ。
ミランダが母とジュスティーヌがぶつからず、どちらにも穏やかに暮らしてほしいと願ったように。
(お爺様だけでなく、ご両親もすでに亡くなられているのよね。会えないぶん、余計にもっと自分にできたことがあったかもしれないと後悔する気持ちがあるのかもしれない……)
「だから、あなたがどうにかしたい、という気持ちもわかる。それなのに俺は……」
「もういいのです」
理解しようとしなかった自分をまだ責めようとするディオンにミランダは優しい声で止めた。
「あなたもわたしも自分の立場があったのですから。わたしは気にしていません。今こうしてあなたがわたしのことを理解しようしてくれている。それで十分ですし、嬉しく思っております。ありがとうございます、ディオン様」
ミランダが微笑むと、ディオンは「ミラ……」と呟いたあと、いきなり抱きしめてきた。
「ディオン様?」
「あなたが、俺の妻でよかったと心の底から思う」
大げさだとミランダは笑い、背中にそっと腕を回した。
「ディオン様。あなたさえよければ、これからもあなたのことを教えてください」
「もちろん。……俺も、もっとあなたのことが知りたい」
抱擁を少し緩め、ディオンがじっと自分を見つめてくる。
琥珀色の瞳には熱が宿っており、ミランダは気づけば彼に口づけされていた。結婚式で儀礼的に交わした口づけとは違う。
「いいか?」
耳元で囁かれ、ミランダはこくりと頷いた。
二人はそのまま寝台に沈んだ。