虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
第五章 悪女は国王陛下の愛に困惑する
目が覚めると、ミランダはディオンに見つめられていたので動揺し、身を起こそうとしたが腕の中に引き戻されてしまう。一糸纏わぬ互いの身体の温もりに、硬直する。
「逃げないでくれ」
「逃げているわけでは……ただ恥ずかしいのです」
肩口に額を押し当て、小声で言い訳する。
昨夜、二人は本当の意味で夫婦になった。ミランダは初めてのことばかりで、ディオンに翻弄されて、途中からあまり意識がなかった。でも、とても恥ずかしかったことは間違いない。
「恥ずかしいだけか? 俺はあなたと一人になれて、幸せだった」
ミランダの背中の髪を撫でたり、指に巻きつけて遊びながらディオンがそう言った。ミランダと同じように声を潜めて、低い声がやけに色っぽく聞こえるのは肌を合わせた翌日だからだろうか。
「……わたしも、あなたと……て、嬉しいです」
「なんだ? 聞こえないな」
もう一度言ってくれ、とからかうように乞われ、ミランダは首を緩やかに振って彼の腕の中に逃げ込んだ。
ディオンは笑って、それ以上の追及はしてこなかった。
その後、二人は部屋で遅めの朝食を済ませ、だらだらと過ごした。ディオンがそうしようと言ったのだ。
ミランダとしてはいつも通り――すぐに執務室に行くと思っていたので驚いた。
「今日くらい、あなたのそばにいたい」
「そう、ですか」
彼は並んで座っていたミランダの顔を覗き込んでくる。
「嫌か?」
「嫌ではありません。でも……クレソン公爵など、大丈夫なのですか」
彼はミランダのことをディオンの大伯父を誑かした魔女と重ねて毛嫌いしていた。ディオンがミランダに心を許し始めて部屋に怒鳴り込んできたのも、過去の出来事が過ったからだろう。
「本当にクレソンが失礼した。もうあんなこと言わせないし、クレソン自身も、あなたの話を聞いて見方を変えたと思う」
「そうあっさり受け入れてくれるものでしょうか」
「クレソンは思い込みが激しいところがあるんだ。そのせいであなたには迷惑をかけてしまったが……根は悪い人間ではない。俺から見ても、あなたが姉君のために自身を偽っていたと知って、反省しているようだった」
今まで嫌われていたことを思えば、複雑な気持ちになったが、彼の立場からすると仕方がないのかもしれない。
(まぁ、ロジェに命を狙われて、嫌味も浴びせられていたし……)
ロジェがあんなにも怒る姿は久しぶりに見た気がする。
「そういえば、ロジェのことですが」
「彼がどうかしたか?」
ロジェの名前を口にすると、なんとなくディオンの顔が強張ったように見えた。
「えっと、今後どうするのかと思いまして……」
「あの様子では、相当腕が立つ人間だろう。あなたの護衛役としては、これ以上ない適役だと思う。だから、特にどうこうするつもりはない」
「許してくださるのですか?」
てっきり処罰が下される……は免れても、主人であるミランダのそばに居続けることは許されないと思っていた。
「あなたと彼はそういった仲ではないのだろう? ……それとも違うのか?」
琥珀色の瞳が仄暗く陰り、ミランダは慌てて否定する。
「いいえ! 違いません! ロジェとは主従関係です。あなたとクレソン卿のような関係ですわ」
「なに? 俺とクレソンのような関係?」
はい、とミランダは朗らかに笑った。
「クレソン卿はディオン様のことを主君としてはもちろん、ご家族のように大切になさって、それゆえ時々暴走してしまうことがあるでしょう? わたしとロジェの関係とよく似ています」
「そう、か……いや、俺とクレソンは……うん。まぁ、そういうことにしておこう」
「?」
不思議そうな顔をするミランダの視線に気づき、ぶつぶつ呟いていたディオンは困った顔をして抱き寄せた。
「逃げないでくれ」
「逃げているわけでは……ただ恥ずかしいのです」
肩口に額を押し当て、小声で言い訳する。
昨夜、二人は本当の意味で夫婦になった。ミランダは初めてのことばかりで、ディオンに翻弄されて、途中からあまり意識がなかった。でも、とても恥ずかしかったことは間違いない。
「恥ずかしいだけか? 俺はあなたと一人になれて、幸せだった」
ミランダの背中の髪を撫でたり、指に巻きつけて遊びながらディオンがそう言った。ミランダと同じように声を潜めて、低い声がやけに色っぽく聞こえるのは肌を合わせた翌日だからだろうか。
「……わたしも、あなたと……て、嬉しいです」
「なんだ? 聞こえないな」
もう一度言ってくれ、とからかうように乞われ、ミランダは首を緩やかに振って彼の腕の中に逃げ込んだ。
ディオンは笑って、それ以上の追及はしてこなかった。
その後、二人は部屋で遅めの朝食を済ませ、だらだらと過ごした。ディオンがそうしようと言ったのだ。
ミランダとしてはいつも通り――すぐに執務室に行くと思っていたので驚いた。
「今日くらい、あなたのそばにいたい」
「そう、ですか」
彼は並んで座っていたミランダの顔を覗き込んでくる。
「嫌か?」
「嫌ではありません。でも……クレソン公爵など、大丈夫なのですか」
彼はミランダのことをディオンの大伯父を誑かした魔女と重ねて毛嫌いしていた。ディオンがミランダに心を許し始めて部屋に怒鳴り込んできたのも、過去の出来事が過ったからだろう。
「本当にクレソンが失礼した。もうあんなこと言わせないし、クレソン自身も、あなたの話を聞いて見方を変えたと思う」
「そうあっさり受け入れてくれるものでしょうか」
「クレソンは思い込みが激しいところがあるんだ。そのせいであなたには迷惑をかけてしまったが……根は悪い人間ではない。俺から見ても、あなたが姉君のために自身を偽っていたと知って、反省しているようだった」
今まで嫌われていたことを思えば、複雑な気持ちになったが、彼の立場からすると仕方がないのかもしれない。
(まぁ、ロジェに命を狙われて、嫌味も浴びせられていたし……)
ロジェがあんなにも怒る姿は久しぶりに見た気がする。
「そういえば、ロジェのことですが」
「彼がどうかしたか?」
ロジェの名前を口にすると、なんとなくディオンの顔が強張ったように見えた。
「えっと、今後どうするのかと思いまして……」
「あの様子では、相当腕が立つ人間だろう。あなたの護衛役としては、これ以上ない適役だと思う。だから、特にどうこうするつもりはない」
「許してくださるのですか?」
てっきり処罰が下される……は免れても、主人であるミランダのそばに居続けることは許されないと思っていた。
「あなたと彼はそういった仲ではないのだろう? ……それとも違うのか?」
琥珀色の瞳が仄暗く陰り、ミランダは慌てて否定する。
「いいえ! 違いません! ロジェとは主従関係です。あなたとクレソン卿のような関係ですわ」
「なに? 俺とクレソンのような関係?」
はい、とミランダは朗らかに笑った。
「クレソン卿はディオン様のことを主君としてはもちろん、ご家族のように大切になさって、それゆえ時々暴走してしまうことがあるでしょう? わたしとロジェの関係とよく似ています」
「そう、か……いや、俺とクレソンは……うん。まぁ、そういうことにしておこう」
「?」
不思議そうな顔をするミランダの視線に気づき、ぶつぶつ呟いていたディオンは困った顔をして抱き寄せた。