虐げていた姉を身代わりに嫁がせようとしましたが、やっぱりわたしが結婚することになりました
「王妃殿下。部屋の壁紙を変えたいと」
「ええ。宮殿の一階、西側の部屋よ。もう所々剥がれていたから。あと家具も新しく欲しいの。陛下の許可は得ているわ」
「かしこまりました」

 ディオンと本当の夫婦になったから――かはわからないが、周囲のミランダへの態度も軟化した。王妃としての仕事も回ってきた。

 と言っても、政治などの小難しい議論や課題は国王であるディオンの領域であり、ミランダは夫婦で住む宮殿の管理などが仕事だ。

(外に行ったり、人と接するような公務はまだ今の生活に慣れてからでいいとおっしゃってくれたし……)

 てっきり信用されていないからと思っていたが、実はいろいろ気遣われていたらしい。

 しかしこれからは少しずつ、実践と共に覚えていく予定だ。

(よーし。頑張るわよ!)

「いつもの姫様らしくなってきましたね」
「ロジェ。……まだその格好なのね」

 お仕着せ姿のロジェにミランダももう驚かなくなってきた。

「ロゼ、です。他の方の目もありますので、呼び方は一応気を付けてください。それから、ええ、今しばらくはこの格好の方がいいかと思いまして、陛下やクレソン卿とも話し合い、ロゼとして過ごさせてもらいます」
「……またフォンテーヌ夫人みたいな人が出てくるのかしら」

 ロジェはミランダが心配し過ぎないよう言うと、以前の茶会のことを口にした。

「あの時夫人は、国王夫妻がまだ夫婦でないことを確信に満ちた口調で口にした。それはつまり、近くで実情を知る者がいるということです」
「間諜がいるってことね」

 怪しいのは……。

「わたしの侍女、とかかしら」
「そうですね。姫様の近くにいる者が一番怪しいと思います」

 だからしばらくの間はロジェが侍女を続けて、尻尾を掴むそうだ。

「今さらだけれど、他国から嫁いできた王妃って大変よね……」

 信頼がないと敵を作りやすく、危険に晒されやすい。

「お姉様だったら、違ったかしら……」

 つい弱気な口調で愚痴を零してしまう。

「では、今からでも変わりますか」

 ミランダはちらりとロジェを見て、そっぽを向いた。

「そんなことするはずがないでしょう。ディオン様はもうわたしと結婚したんですもの。お姉様にだって譲らないわ」
「そうですか。では頑張らないといけませんね」

 淡々とした問答にミランダはもうちょっと優しい慰めがほしいと恨みがましい目でロジェを見ていたが、何か? と首を傾げられ、諦めたようにため息をついた。そして、腹を括ったような、やる気に満ちた表情で拳を握りしめる。

「そうね。うじうじしているなんて、わたしの性に合わないわ」

 じっとしているからあれこれ考えてしまうのだ。

「ロジェ、じゃなくて……ロゼ、またご夫人たちを呼んでお茶会を開くわ」
「以前と同じメンバーで?」
「いいえ。今度はもっと少人数でお呼びするわ」

 その方がじっくり相手の人となりを知ることができるだろう。

「それから、今までの王妃様は慰問に熱心だと聞いたわ。わたしも、彼女たちに敬意を示して、またこの国のために同じことをしようと思うの」
「ではそのように手配しますね」

 やることが決まり、ミランダはよし! と気合いを入れた。
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